大分市城崎町の深田法律事務所代表。
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愛知県警が証拠改ざん!?名古屋地裁と名古屋高裁の判決(全文)
更新日:2026年09月12日
「愛知県警は、証拠であるドラレコの音声データを改ざんしたんじゃないか?」
そう言われている事件の名古屋地方裁判所と名古屋高等裁判所の判決全文です。
ただし、太字と「【※愛知県警への追及に関する部分】」の文言追記は、当サイト運営者(弁護士深田茂人)がしたものです。
目次の【※愛知県警への追及に関する部分】をクリックして太字を探すと、愛知県警への追及に関する地裁と高裁の判断をすぐに読めます。
名古屋地方裁判所判決(令和4年10月5日)
主文
1 被告は、原告A株式会社に対し、328万0473円及びこれに対する令和2年12月16日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告Bに対し、384万8141円及びこれに対する令和2年4月6日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
3 原告Bのその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、原告Bに生じた費用の3分の1及び被告に生じた費用の4分の1を原告Bの、原告A株式会社に生じた費用の全部、原告Bに生じた費用の3分の2及び被告に生じた費用の4分の3を被告の負担とする。
5 この判決は、本判決が被告に送達された日から7日を経過したときは、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告が、原告A株式会社のために320万円の担保を供するときは第1項について、原告Bのために360万円の担保を供するときは第2項について、それぞれ、各仮執行を免れることができる。
第1 請求の趣旨
1 甲事件について 主文第1項同旨
2 乙事件について
被告は、原告Bに対し、1221万9594円及びこれに対する令和2年4月6日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、令和2年4月6日午後11時50分頃、名古屋市a区bc丁目d番地(その他名古屋市道)において、被告に属する愛知県警察本部に勤務する警察官であるCが、その職務の執行として運転するパトカーと、原告Bが運転する自家用普通貨物自動車が衝突する事故が生じ、原告Bに、弁護士費用を除き、1104万2007円の人身損害及び345万8058円の物的損害(ただし、同原告B運転自動車のスクラップ代15万円を控除した後の金額)が生じ、原告A株式会社が、原告Bとの間で締結された人身傷害保険及び車両保険契約に基づき、令和2年12月15日までに、原告Bの各損害に対し、83万7303円の人身傷害保険金及び244万3170円の車両保険金を支払い、保険法25条1項に基づき、支払保険金額の合計額である328万0473円分の、原告Bの被告に対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権を代位取得したとして、原告A株式会社が、被告に対し、同額及び保険金支払の最終日の翌日である令和2年12月16日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求め(甲事件)、原告Bが、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、保険金控除後の残額に弁護士費用相当額100万円を加えた合計1221万9594円及び同額に対する不法行為の日である令和2年4月6日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める(乙事件)事案である。
1 前提となる事実
以下の事実は、当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定することができる。
(1) 当事者等
ア 原告Bは、昭和55年7月27日生まれの男性で、本件事故当時、株式会社Dに10トントラックの運転手として勤務していた。なお、原告Bの令和元年度の給与収入は527万2920円、令和2年度の給与収入は448万6661円であり、本件事故前90日分の給与は、合計109万2660円であった。(甲1、13、16の1・2、丙14)
イ Cは、本件事故当時、被告に所属する愛知県警察本部に勤務していた警察官で、警察官の職務の執行として、後述する被告パトカーを運転していた。
(2) 事故の態様等
令和2年4月6日午後11時50分頃、以下の態様等の交通事故が発生した(甲1、2、15、乙1、11。以下「本件事故」という。)。
ア 日時 令和2年4月6日午後11時50分頃
イ 場所 名古屋市a区bc丁目d番地先路線上(その他名古屋市道)
ウ C運転パトカー(以下「被告パトカー」という。)
(ア) 車種 自家用普通乗用自動車(パトカー)
(イ) 車両番号 ●省略●
エ 原告B運転自動車(以下「原告車両」という。)
(ア) 車種 自家用普通貨物自動車
(イ) 車両番号 ●省略●
オ 態様
本件事故現場は、双方片側1車線の道路が交差する信号機により交通整理されている交差点であるところ、同所において、西から東方向へ対面信号青色で交差点に進入した原告車両と、南から北方向へ対面信号赤色で交差点に進入した被告パトカーが出合い頭に衝突した。
(3) 本件事故当時、被告パトカーは、赤色灯を点灯させていたが、サイレンを吹聴させていなかった(争いがない)。
(4) Cは、緊急自動車として必要なサイレンの吹聴をしない状態で、対面信号が赤信号であるにもかかわらず、被告パトカーを同交差点に進入させ、青信号に従って交差点に進入した原告車両と出合い頭に衝突させたものであり、被告は、国家賠償法1条1項に基づき、本件事故によって原告Bに生じた損害を賠償する義務を負い、かつ、原告Bには、過失相殺をすべき過失は認められない(争いがない)。
(5) 原告Bは、令和元年10月13日、原告A株式会社との間で、同年11月7日から1年間を保険期間とし、上限保険金額を250万円、代車費日額上限5000円とする車両保険特約付き、及び、上限保険金3000万円とする人身傷害保険付きの自動車損害保険契約を締結した(丙2)。
(6) 原告Bは、令和2年7月31日、本件事故時における原告車両の所有者であったE株式会社に対し、自動車ローンを完済し、同車両の所有権とともに、被告に対する損害賠償請求権の一切を取得した(甲7、8)。
(7) 原告A株式会社は、令和2年12月15日までに、(5)の保険契約に基づき、原告Bに対し、人身傷害保険金83万7303円及び車両保険金244万3170円を支払った(丙18、19、21)。
(8) 原告Bは、本件事故による傷害について、自動車損害賠償責任保険の後遺障害等級認定を申請したところ、同認定機関は、令和3年6月11日、要旨、下記の理由で、原告Bには後遺障害に該当する障害が認められないと判断した(甲10)。
記
ア 頚部挫傷後の頚部痛については、提出された画像上、本件事故による骨折等の異常所見が認められず、診断書等からも自覚症状を裏付ける医学的所見に乏しいことに加え、症状経過、治療状況等も勘案すると、後遺障害に該当しない。
イ 右第8肋骨骨折後の右胸部痛については、提出された画像上、右第8肋骨骨折が判然としないことに加え、後遺障害診断書上も、肋骨骨折に伴う疼痛は消失したものとされていることからすると、後遺障害には該当しない。
2 争点
(1) 原告Bの後遺障害の有無及び程度(争点1)
【原告Bの主張】
ア 原告Bは、本件事故によって頚部挫傷、頭部挫傷、右肩挫傷、右背部挫傷及び右第8肋骨骨折の傷害を負い、令和2年10月30日に症状固定に至った。
しかし、原告Bには、頚部挫傷後の頚部痛がなお残った。
イ 本件事故は、被告パトカーが勢いよく原告車両の運転席側に衝突してきたものであり、その衝撃で、原告車両は、衝突地点から8.6m先に180度回転して停止し、被告パトカーも、進行方向先30.6mの地点で停止した。原告Bは、原告車両を運転していたところ、このような強い衝撃のため、頭部及び頚部が大きく揺さぶられ、右側頭部を車内に強く強打し、腫脹が生じ、合わせて、右第8肋骨も骨折した。
ウ 原告Bは、本件事故直後から頚部痛を訴えたが、本件事故が深夜に生じたものであったことから、翌日、Fクリニックを受診し、以後、症状固定日まで通院を重ねたが、本件事故時から、50~60%程度にまでしか疼痛が緩和されることはなかった。
そして、原告Bは、令和2年9月18日、頚椎MRI画像の撮影が行われたが、この画像からは、T2強調水平断像で、右C4/5、左C5/6、左C6/7の椎間孔狭窄が認められ、これらの狭窄によって右C5、左C6、左C7の各神経根症状である頚部痛が惹起された。
エ 以上のとおり、原告Bに残った頚部痛は、頚椎MRI画像によっても裏付けられたものであり、本件事故態様や治療経緯等に鑑みても、局部に頑強な神経症状を残したものというべきである。
よって、原告Bには、自動車損害賠償保障法施行令別表2記載の12級13号に相当する後遺障害が生じた(以下、後遺障害等級については、同別表の等級を用い、「●級」又は「●級●号」というようにいう。)。
【被告の主張】
原告Bの令和2年9月18日付の頚椎MRI画像には、右C4/5、左C5/6、左C6/7の椎間孔狭窄が認められるが、これらは、いずれも、経年性の既往症であり、本件事故によって生じたものではない。
原告Bの診療録を検討しても、一時期、左手指の痺れを訴えたものの、令和2年9月18日時点では改善しており、運転の仕事もできている。また、頚部痛も、夕方に出現するもので、常時痛ではない。その他、CTやX線写真からも外傷性所見が認められないことに鑑みれば、原告Bに、本件事故によって、12級13号又は14級9号のいずれかに相当するような神経症状が生じたものとは認められない。
(2) 素因減額又は既往症減額の可否
【被告の主張】
原告Bには、本件事故時、右C4/5、左C5/6、左C6/7の椎間孔狭窄があり、外傷による局所的な神経症状を誘発しやすい状態にあった。
そのため、原告Bの人身損害額が拡大したものであるから、原告Bの人身損害額の50%について、素因減額又は既往症減額をすることが相当である。
【原告らの主張】
原告Bの右C4/5、左C5/6、左C6/7の椎間孔狭窄は、本件事故によって生じたものであるか、本件事故時にあったとしても、その程度は一般的な経年性変性の程度を超えるようなものではなく、本件事故を契機として神経症状が現れたものである。
そうすると、原告Bに、素因減額をしなければ公平を欠くような、特別な素因があったものとは認められない。
(3) 原告Bの損害及び原告A株式会社の求償可能額(争点3)
争点1及び2に関するもののほか、原告Bの損害及び原告A株式会社の求償可能額に関する当事者の主張は別紙「損害額一覧表」記載のとおりである。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告Bの後遺障害の有無及び程度)について
(1) 本件事故後に撮影された原告Bの令和2年9月18日付の頚椎MRI画像には、右C4/5、左C5/6、左C6/7の椎間孔狭窄が認められることについては当事者に争いがない。
しかし、本件事故翌日の原告BのX線写真には、頚部痛の直接的な原因となる外傷性の骨折や脱臼などがなく、同MRI画像を判読した第三者医師であるG医師も、これらの狭窄によって、頚部痛を発症するものと考えられるものの、本件事故前からあったものであり、本件事故によって発症に至ったとの見解を示している(甲12)。また、原告Bのこれら椎間孔狭窄の程度が比較的軽度であることに鑑みれば(乙12)、これら椎間孔狭窄が、本件事故によって生じた外傷性所見であり、かつ、これによって、12級13号相当の後遺障害が生じたものとも認められない。
(2) 一方、原告B本人並びにFクリニックの医師が作成した診断書、後遺障害診断書及びH記念病院の診療録(甲11、乙12、丙7の1ないし7)からは、原告Bの手の痺れが軽快することがあっても、頚部痛については本件事故後から症状固定時まで一貫して訴えていたこと、症状固定時においても、主観的には本件事故時から50~60%程度の痛みを残していたと訴えていたことが認められる。この点、被告は、原告Bの診療録上、ADLには支障がないとされていることや、多忙なときには痛みが生じるとの記載がある点を指摘するが、これらは、疼痛が継続していたことを否定するものではないし、ADLに支障がなくとも、10トントラックの運転手という、身体的負担を伴う職務の性質に鑑みれば、労働能力を喪失させる程度の神経症状が存在していたことを否定するものともいえない。
また、本件事故は、緊急配備のため、赤信号であってもあえてこれを超えようとしていた被告パトカーが、青色信号に従って、通常の走行方法で走行していた原告車両の運転席側に衝突してきたものであり、運転席に座っていた原告Bには相当強い衝撃が加えられたものと認められる。現に、本件事故後、原告車両は、衝突地点から8.6m先に180度回転して停止し、被告パトカーも、進行方向先30.6mの地点で停止しており(乙1)、原告Bには、不意に原告車両全体から、捻じれ又は押し戻しの力が加えられたものと認められる。
これらの点に加え、本件事故によって、原告車両に、右センターピラー及び右フロントピラーが大きく歪むほどの損傷が生じたことも併せ考えると、原告Bに、本件事故による衝撃により、前記椎間孔狭窄と相まって、頚部痛を残すに至ったものと説明することは十分可能である。
なお、自動車損害賠償責任保険の後遺障害等級認定においては、後遺障害非該当とされているが、上記事故態様も併せ考えると、同認定は採用できない。
(3) よって、原告Bには、14級9号相当の神経症状と評価されるべき頚部痛が後遺障害として残ったものと認められる。
2 争点2(素因減額又は既往症減額)について
被告は、原告Bの右C4/5、左C5/6、左C6/7の椎間孔狭窄が既往症であり、かつ、これによって、原告Bは、本件事故時、外傷性の神経症状を誘発しやすい状態であったと主張する。
しかし、原告Bの年齢及び大型ダンプの運転手という、固定された姿勢と振動にさらされ、かつ、力仕事が求められる職業に従事していたこと及び同椎間孔狭窄の大きさに鑑みれば、原告Bの同椎間孔狭窄が、一般的な経年性変性を超え、これによって、原告Bの人身損害が、特別に拡大したものとまではいえない。
また、後遺障害の点については、上記のとおり、14級9号にとどまるものであること、原告Bが本件事故で受けた衝撃が相当強かったものと認められることに鑑みれば、上記椎間孔狭窄があったために後遺障害と評価されるほどに重篤化したものとはいえないし、当該等級を前提とするならば、損害額が増えたともいえない。
よって、原告Bには、素因減額を適用すべき事由は認められず、被告の主張は採用できない。
3 争点3(原告Bの損害及び原告A株式会社の求償可能額)について
以上検討した点のほか、原告Bの損害及び原告A株式会社の求償可能額に関する当裁判所の認定は、4で検討する点を踏まえ、傷害慰謝料を定めるほか、別紙「損害額一覧表」の「裁判所認定額」欄記載のとおりであり、原告Bには384万8141円の損害が認められ、原告A株式会社の求償可能額は328万0473円であると認められる。
なお、被告は、原告Bが、乙事件の訴え提起時、休業損害について、令和2年4月7日に欠勤した分の給与に相当する1万2141円であると主張し、被告がこれを認めた後に、請求額を拡張した点について、自白の撤回であり、認められないと主張する。しかし、自白をすることができるのは、休業損害について主張立証責任を負わない被告であり、当然、原告Bは、自白をすることもその自白を撤回することもできない。そして、原告Bが、令和2年4月7日の欠勤分の休業損害についての主張を撤回したとまでは認められないから、原告Bが行ったのは、自白が成立した主張の拡張である。そうすると、被告の自白の撤回に関する主張は採用できない。
4 傷害慰謝料及び訴訟費用の負担について【※愛知県警への追及に関する部分】
(1) 本件訴訟の経緯に鑑み、傷害慰謝料及び、訴訟費用の負担について、以下検討する。
(2) 本件では、当初、本件事故当時、原告Bの過失割合を検討する前提として、被告パトカーがサイレンを鳴らしていたかが争点となっていた。また、被告は、本件訴訟係属中に、被告パトカーがサイレンを鳴らしており、原告Bに過失が存することを前提に、被告パトカーの損害等の賠償を求める反訴を提起していたが(当庁令和3年(ワ)第4317号)、サイレンを鳴らしていなかったことを自認したことから、同反訴を取り下げた。
(3) 被告パトカーのサイレン音に関する、被告の訴訟活動は、以下のとおりである(裁判所に顕著)。
ア 被告パトカーに乗車していた警察官であるCは、令和2年4月7日、本件事故現場において実況見分を行い、本件事故当時、被告パトカーのサイレンが鳴っていた旨、供述した。なお、かかる実況見分に基づく実況見分調書は、令和3年1月10日になって作成された。(乙1)
イ 原告Bは、原告車両のドライブレコーダーの映像を提出した(甲15)。この映像には音声が入っており、本件事故当時、被告パトカーの赤色灯が点灯していたこと、本件事故直後に、被告パトカーのサイレンが鳴っていたことは確認できたものの、本件事故前にサイレンが鳴っていたかは明らかではないものであった。
ウ 被告は、被告パトカーのドライブレコーダーの映像(乙4、11)を提出したが、提出されたドライブレコーダーの映像は、音声データが含まれていないものであった。音声データが含まれていない点について、被告指定代理人である愛知県警察本部警務部監察官室に所属するIは、通常警ら中のパトカーは、ドライブレコーダーの録音機能を使用していないので、本件事故当時の被告車両のドライブレコーダーには音声が録音されていないと記載した報告書(乙6)を作成し当裁判所に提出した。
エ 当裁判所は、原告車両のドライブレコーダーの映像の音声データの周波数を検討すると、本件事故直前に、被告パトカーのサイレン音と同程度の周波数帯に音声が含まれているかが明らかではないこと、被告が提出したドライブレコーダーの映像のデータを見ると、音声データ部分のバイナリデータが極めて整っており、論理的に音声が入っていない可能性があること、緊急配備を開始し、捜査上の資料を保全し始めなければならないのに録音をしていなかったという点に疑問が残ることを指摘し、被告において、ドライブレコーダーの映像の音声解析を試みること、捜査上の秘密に関する音声等を秘匿する際の編集過程等で、誤って音声データを消去した可能性がないかを再検討し、合わせて、被告パトカーに搭載されていたドライブレコーダーの型番の特定、マニュアルの提出、愛知県警察本部におけるドライブレコーダーの運用規程の提出を求めた。
オ 被告は、上記裁判所から釈明を求められた後、令和4年2月3日、被告パトカーのサイレンが鳴っていたとは認められないことを認め、同年3月24日、反訴を取り下げた。
(4) 以上のとおり、本件では、原告Bの損害論について争いがある一方で、過失割合に関連し、被告パトカーのサイレンが鳴っていたかが重大な争点となっており、本件訴訟が係属してから約10か月間、この争点について、証拠の提出を求め、攻撃防御が繰り返されていた。Cは、令和2年4月7日に、同人を過失運転致傷事件の被疑者として行われた実況見分において、被告パトカーのサイレンが鳴っていたと供述した。この実況見分に基づく実況見分調書が作成されたのが、実況見分が行われてから約9か月後であるというのは、実況見分を行った以上、調書を作成すべき義務があること(犯罪捜査規範104条2項)を踏まえると極めて不自然であるが、この点はさておくとしても、長期間、調書を作成しなかったというのは、現場の状況を保全するという観点から、極めて不相当といわざるを得ない。また、実況見分における現場説明ないし現場指示の重要性を知るべき立場にあるCが、少なくとも正確な記憶に基づくことなく、かかる供述をしたことは、極めて遺憾といわざるを得ない。
加えて、本件訴訟が係属し、被告パトカーのサイレンが鳴っていたかが争点となっていることが明らかになった後もなお、被告は、警察内部の問題について調査すべき監察官室の調査結果として、音が録音されていなかった、という内容の報告書を提出し、サイレンを鳴らしていたと主張していたものであり、その主張に至る経緯は定かではないが、少なくとも、警察権の行使にあたり、適切な証拠収集と証拠保全、手続過程の記録化を旨としなければならない警察の対応としては、杜撰というよりほかない。
これらの被告の訴訟追行態度の結果、当審における手続の約半分の期間を、被告パトカーのサイレンが鳴っていたか否かという争点に費やすこととなったものであるから、本件における訴訟費用は、民訴法63条の法意に鑑み、民訴法64条本文を適用して、各当事者に生じた費用の2分の1は、被告の負担とし、その余の費用については、同法64条1項、61条を適用して、請求額と認容額の割合等に応じて定めることが相当であり、かつ、傷害慰謝料を検討する際にも、事後の不誠実な対応として考慮することが相当である。
5 結論
以上によれば、原告A株式会社の請求は、全部理由があるから認容することとし、原告Bの請求は、国家賠償法1条1項に基づいて、被告に対し、384万8141円及び同額に対する本件事故日である令和2年4月6日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法64条本文、61条を適用し、申立てにより、民訴法259条1項を適用し、かつ、職権により条件を付して、原告らの請求のうち、各認容部分について仮執行をすることができることを宣言し、申立てにより、民訴法259条3項を適用して、担保を立てて仮執行を免れることができることの宣言をすることとし、主文のとおり判決する。
裁判官 西尾太一
名古屋高等裁判所判決(令和5年3月23日)
主文
1 原判決中、被控訴人に関する部分を次のとおり変更する。
(1) 控訴人は、被控訴人に対し、375万1779円及びこれに対する令和2年4月6日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人の控訴人に対するその余の請求を棄却する。
2 控訴人のその余の控訴並びに被控訴人の附帯控訴及び当審における拡張請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用中、当審において生じた部分及び原審において控訴人と被控訴人との間に生じた部分は、これを4分し、その1を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
4 この判決主文第1項(1)は、仮に執行することができる。ただし、控訴人が380万円の担保を供するときは、その仮執行を免れることができる。
第1 当事者の求める裁判
1 控訴人
(1) 原判決中、被控訴人に関する部分のうち、控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 上記取消部分に係る被控訴人の請求を棄却する。
2 被控訴人(当審における拡張請求の趣旨を含む。)
原判決中、被控訴人に関する部分を次のとおり変更する。
控訴人は、被控訴人に対し、1158万9015円及びこれに対する令和2年4月6日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件(原審)は、被控訴人が、自身の運転する自動車と控訴人に所属し愛知県警察本部に勤務する警察官運転のパトカーとの間で発生した交通事故により物的損害及び人身傷害が生じたとして、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償1221万9594円及びこれに対する不法行為日(交通事故日)である令和2年4月6日から支払済みまで同法4条、民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払いを求める事件である。
原審は、被控訴人の請求を、384万8141円及び遅延損害金の支払いを求める限度で認容し、その余を棄却する旨の原判決をしたところ、これに対し、控訴人が敗訴部分を不服として控訴し、被控訴人が敗訴部分の一部(765万0417円及びその遅延損害金の限度)を不服として附帯控訴し、弁護士費用を9万0457円増額して請求を拡張した。
なお、原審において、控訴人は、被控訴人に対し、損害賠償を求める反訴を提起したが(名古屋地方裁判所令和3年(ワ)第4317号)、控訴人はこれを取り下げた。また、被控訴人と人身傷害保険及び車両保険契約を締結していた原審相原告三井ダイレクト損害保険株式会社(以下、単に「三井ダイレクト」という。)が、控訴人に対し、上記各契約に基づいて支払った保険金328万0473円について、保険法25条1項に基づき、代位取得した328万0473円及び最終の保険金支払日の翌日である令和2年12月16日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払いを求める訴訟を提起し(同庁令和3年(ワ)第1305号求償金請求事件)、原審は、その弁論に被控訴人の訴訟の弁論を併合して審理、判決(三井ダイレクトの請求を全部認容する判決)したが、控訴人がこれに対して控訴していないため、原判決中、三井ダイレクトに関する部分は確定している。
2 前提となる事実
次の事実は、当事者間に争いがないか、後掲の証拠及び弁論の全趣旨により、優に認めることができる。
(1) 交通事故の発生
次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。(甲1、2、15、乙1、11)
ア 発生日時
令和2年4月6日 午後11時50分頃
イ 発生場所
B市(以下略)先路線上
ウ 関係車両
(ア) D(以下「D」という。)運転の自家用普通乗用自動車(パトカー。(省略)。以下「控訴人車両」という。)
(イ) 被控訴人運転の自家用普通貨物自動車((省略)。以下「被控訴人車両」という。)
エ 事故態様
前記イの事故現場は、片側一車線の南北の直線道路(B市道。以下「南北道路」という。)と片側一車線の東西の直線道路(B市道。以下「東西道路」という。)とが交差する交差点(以下「本件交差点」という。)であり、信号機により交通整理が行われている。
東西道路を西から東に向かって、対面信号機が青色灯火信号で本件交差点に進入した被控訴人車両と、南北道路を南から北に向かって、対面信号機が赤色灯火信号で本件交差点に進入した控訴人車両とが出合い頭に衝突した。
なお、本件事故当時、控訴人車両は、赤色の警光灯を点灯させていたが、サイレンを鳴らしていなかった。
(2) 当事者等
ア 被控訴人は、昭和55年(以下略)生まれの男性であり、本件事故当時、株式会社丹羽由運送で10トントラックの運転手として勤務していた。(甲1、13)
イ 控訴人は、普通地方公共団体であり、控訴人には愛知県警察が置かれ、その本部として愛知県警察本部が置かれている(警察法36条1項、47条1項)。
ウ Dは、控訴人の愛知県公安委員会が任命した警察官であり、本件事故当時、愛知県警察本部に勤務し、その職務の執行として控訴人車両を運転していた。
(3) 責任原因
控訴人の愛知県警察の警察官で公権力の行使に当たる公務員であるDは、その職務を行うについて、緊急自動車として必要なサイレンを鳴らしていない状態で、かつ、道路交通法施行令14条ただし書の場合にあたらない場合、信号機の表示する信号にしたがって通行しなければならない自動車運転上の注意義務があるのにこれを怠り、対面信号機が赤色灯火信号であったにもかかわらず、控訴人車両を本件交差点に進入させ、これにより対面信号機が青色灯火信号で本件交差点に進入した被控訴人車両に衝突させる本件事故を発生させたものである。したがって、控訴人は、被控訴人に対し、国家賠償法1条1項に基づき、本件事故によって被控訴人に生じた損害を賠償する責任を負う。
(4) 診断結果及び通院状況
ア 被控訴人は、本件事故の翌日である令和2年4月7日、E外科内科クリニック(以下「Eクリニック」という。)を受診した。Eクリニックの医師は、被控訴人の傷病について、頚部挫傷、頭部挫傷、右肩挫傷、右背部挫傷及び右第8肋骨骨折と診断した。(丙7の1)
イ 被控訴人は、本件事故後、上記アの通院を含め、次のとおり通院して治療を受けた。
(ア) Eクリニック(丙7の1から7まで)
令和2年4月7日から同年10月30日まで(実通院日数94日)
(イ) F病院(丙9の1・2)
令和2年4月11日及び同年9月18日
(5) 保険契約及び保険金の支払い
被控訴人は、令和元年10月13日、三井ダイレクトとの間で、同年11月7日午後4時から令和2年11月7日午後4時までを保険期間とし、車両保険特約及び人身傷害保険が付された自動車損害保険契約を締結した。(丙2)
三井ダイレクトは、令和2年12月15日までの間に、被控訴人に対し、上記自動車保険契約に基づき、人身傷害保険金83万7303円及び車両保険金244万3170円を支払った。
(6) 被控訴人車両の所有者
本件事故当時、被控訴人車両は名古屋トヨペット株式会社が所有していた。
被控訴人は、令和2年7月31日、名古屋トヨペット株式会社に対し、被控訴人車両の自動車ローンを完済し、被控訴人車両の所有権とともに、控訴人に対する被控訴人車両に係る損害賠償請求権を取得した。(甲7、8)
(7) 後遺障害等級認定について
本件の自動車損害賠償責任保険(共済)の後遺障害等級認定をした損害保険料率算出機構は、令和3年6月11日、要旨次のような理由で、被控訴人には後遺障害に該当する障害が認められないと判断した。(甲10)
ア 頚部挫傷後の頚部痛については、提出の画像上、本件事故による骨折等の外傷性の異常所見は認められず、その他診断書等からも自覚症状を裏付ける医学的所見に乏しいことに加え、症状経過、治療経過等も勘案した結果、将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉えられないことから、自動車損害賠償責任保険(共済)における後遺障害には該当しないと判断する。
イ 右第8肋骨骨折後の右胸部痛については、提出の画像上、右第8肋骨骨折は判然としないことに加え、後遺障害診断書上、「右第8肋骨々折 挫傷に伴う疼痛は消失」とされていること等から、将来においても回復が困難と見込まれる障害とは認め難く、自動車損害賠償責任保険(共済)における後遺障害には該当しないと判断する。
3 争点
(1) 被控訴人の後遺障害の有無及びその程度
(2) 素因減額又は既往症減額
(3) 被控訴人の損害の発生及びその数額
4 争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)(被控訴人の後遺障害の有無及びその程度)について
ア 被控訴人の主張
(ア) 被控訴人は、本件事故により頚部挫傷、頭部挫傷、右肩挫傷、右背部挫傷及び右第8肋骨骨折の傷害を負い、令和2年10月30日に症状固定に至ったが、頚部挫傷後の頚部痛が残った。
(イ) 本件事故の態様、車両の損傷状況、上記(ア)の受傷内容、被控訴人が頚部のほかに右側頭部を車内に強打して腫脹が生じたことなどからすれば、被控訴人の受けた衝撃が大きかったことは明らかである。
(ウ) 被控訴人の治療頻度は、高頻度であり症状固定までに6か月以上を要し、その症状は一貫して継続し、症状固定時もなお未だ50から60%程度と評価し得る痛みが残り、その程度も特に仕事後は嘔気を伴うほどの強い痛みであった。
(エ) 本件事故後の被控訴人の頚椎MRI画像を読影した医師は、T2強調水平断像で右C4/5、左C5/6、C6/7の椎間孔狭窄を認め、これらの狭窄が右C5、左C6及びC7の神経根症状を起こし得るとして、これら右C5、左C6及びC7神経根のいずれかの障害が本件事故を契機に頚部痛として発症した可能性が高いとの見解を示している(甲12)。
(オ) 以上の(ア)から(ウ)までに加え、上記(エ)のとおり被控訴人の頚部痛が画像所見によって裏付けられていることに照らすと、被控訴人に残存した頚部痛の症状の程度は、自動車損害賠償保障法施行令別表第二の12級13号に相当する後遺障害が生じた(以下、後遺障害等級については、同別表の等級を用い、「○級」又は「○級○号」のようにいう。)と評価すべきである。
イ 控訴人の主張
(ア) 被控訴人の令和2年9月18日撮影の頚椎MRI画像では、被控訴人の右C4/5、左C5/6、C6/7の椎間孔狭窄が認められるが、これらはいずれも経年性の既往症であり、本件事故によって生じたものではない。
(イ) 被控訴人の頚部痛や重い感じは、下を向く時に発生し、また夕方や仕事後に発生しているもので、常時痛ではない。また、被控訴人の頚部の症状は、痛みではなく重い感じであり、その症状も次第に軽快にむかっており、後遺障害として残存していない。
加えて、14級の後遺障害が残存するのであれば、労働能力が5%程度喪失するような症状が残存している必要があるところ、被控訴人の症状の程度は軽く、仕事に支障を生じるようなものでもないから、後遺障害として認められるような神経症状とはいえない。
(ウ) 前記2(7)のとおり、自動車損害賠償責任保険の保険会社も、被控訴人の症状について後遺障害にあたらないと判断している(甲10)。
(エ) 以上によれば、被控訴人には、本件事故に起因する後遺障害は存在しない。
(2) 争点(2)(素因減額又は既往症減額)について
ア 控訴人の主張
被控訴人の既往症である椎間孔狭窄の変性が、右C4/5、左C5/6、C6/7と多椎間に認められることからすれば、これらの既往症が被控訴人の症状発生に寄与したといえ、その寄与率は50%を下らない。
イ 被控訴人の主張
被控訴人の右C4/5、左5/6、左6/7の椎間孔狭窄は、本件事故によって生じたか、又は本件事故時には存在していたとしてもその程度は一般的な経年性変性の程度を超えるようなものではない。神経症状は、本件事故を契機に生じたものである。したがって、被控訴人に、素因減額をしなければ公平を欠くような特別な素因があったとは認められない。
(3) 争点(3)(被控訴人の損害の発生及びその数額)について
ア 被控訴人の主張
被控訴人は、本件事故により次の損害を被った。
(ア) 人身損害
a 治療費 16万7940円
被控訴人は、本件事故により前記2(4)アの傷害を負い、その治療のため、同イ(ア)及び(イ)のとおり通院し、上記のとおりの治療費(合計)を要した。
b 通院交通費 2442円
被控訴人は、上記aの治療のために自動車で通院した。その通院交通費は、ガソリン代を1kmあたり15円として、次のとおりとなる。
(a) Eクリニック 2256円
自宅からEクリニックまでは片道0.8kmであるから、次のとおり2256円となる。
15×0.8km×2(往復)×94日=2256円
(b) F病院 186円
自宅からF病院までは片道3.1kmであるから、次のとおり186円となる。
15×3.1km×2(往復)×2日=186円
c 後遺障害診断書代 1万円
被控訴人は、本件事故により前記4(1)アのとおりの後遺障害が残存しているところ、その診断書代として、令和2年11月10日、Eクリニックに対して1万円を支払った。
d 休業損害 31万4706円
被控訴人は、本件事故による傷害によって生じた症状及びそれに対するリハビリ治療を受けるため、本件事故後は就労を制限せざるを得ず、早めに終わることができる仕事を中心に受け、残業及び夜勤を制限することにより収入が減少した。その額は、次のとおり31万4706円となる。すなわち、本件事故前2年間(平成30年が516万2643円、平成31・令和元年が527万2920円。)の平均額521万7781円(1円未満切り捨て。以下同じ。)と本件事故後2年間(令和2年が448万6661円、令和3年が484万4404円)の平均額466万5532円の差額55万2249円(年額)を基礎として、本件事故日(令和2年4月6日)から症状固定日(同年10月30日)までの208日間分である。したがって、これを休業損害として請求する。
e 逸失利益 629万6921円
被控訴人は、本件事故により12級13号の後遺障害が残り、
これにより症状固定後10年にわたって、労働能力を14%喪失した。被控訴人の本件事故の前年(令和元年)の収入額は527万2920円であり、これを基礎収入額とすべきである。これに労働能力喪失率14%、年3%の10年のライプニッツ係数8.53を用いて逸失利益を算定すると、次のとおり629万6921円となる。527万2920円×14%×8.53≒629万6921円
f 傷害慰謝料 150万円
被控訴人が本件事故によって負った傷害の程度、通院期間等の事情を考慮すると、傷害慰謝料は150万円が相当である。
g 後遺障害慰謝料 275万円
被控訴人に残存した後遺障害の内容、程度等に照らすと、後遺障害慰謝料として275万円が相当である。
h 弁護士費用 100万円
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用(人身損害に係るもの。)は、100万円(当審において9万0457円拡張。)が相当である。
i まとめ
前記aからgまでの合計1104万2009円から、損害の填補となる三井ダイレクトから支払われた人身傷害保険金83万7303円を控除した残金1020万4706円に、当審で請求する上記hの弁護士費用100万円を加えた1120万4706円が人身損害の残額となる。
(イ) 物的損害
被控訴人は、次のとおり物的損害を被った。
a 修理費・車両時価額 271万4888円
本件事故により被控訴人車両は損傷し、その修理費用として271万4888円を要する。なお、本件事故当時の被控訴人車両の時価額は337万5000円である。
b 評価損 80万円
被控訴人車両の損傷の程度等に照らすと、被控訴人車両を修理しても評価損がある。その額は、修理費の約30%程度である80万円とすることが相当である。
c 代車料 9万3170円
被控訴人は、令和2年4月7日から同年5月4日までの間、代車の使用を必要とした。それに要した費用は9万3170円である。
d 弁護士費用 9万0457円
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用(物的損害に係るもの。)は、9万0457円が相当である。
e まとめ
前記aからcまでの合計360万8058円から、損害の填補となるスクラップ代15万円及び三井ダイレクトから支払われた車両保険金244万3170円を控除した残金101万4888円に、上記dの弁護士費用を加えた110万5345円が物的損害の残額となる。
(ウ) 附帯控訴における請求
附帯控訴における請求額は、人身損害について前記(ア)iのとおり1120万4706円、物的損害について前記(イ)eのとおり110万5345円の合計1231万0051円(9万0457円の拡張請求分を含む。)となるが、原判決中被控訴人に関する部分の被控訴人敗訴部分のうち765万0417円の範囲で不服を申し立て、9万0457円の拡張請求をする(合計774万0874円)。
イ 控訴人の主張
(ア) 人身損害について
a 治療費 16万7940円
治療費16万7940円は認める。
b 通院交通費 1737円
合計1737円の限度で認める。
(a) Eクリニック 1551円
自宅からEクリニックまでは片道0.55kmであるから、1551円となる。
15×0.55km×2(往復)×94日=1551円
(b) F病院
186円の通院交通費を認める。
c 後遺障害診断書代 0円
否認する。被控訴人は、本件事故による後遺障害はないから、その診断書を取得する必要がない。
d 休業損害 1万2141円
被控訴人の休業損害は、本件事故により令和2年4月7日に勤務できなかったことによって支給が受けられなかった同日分の給与分のみである。そして、被控訴人の本件事故前90日分の給与は109万2660円であったから、その1日あたりの額1万2141円が休業損害となる。
e 逸失利益 0円
否認する。被控訴人には、本件事故による後遺障害はない。
f 傷害慰謝料 120万円
被控訴人が本件事故によって負った傷害の程度、通院期間等の事情を考慮し、傷害慰謝料は120万円の限度で認める。
なお、原審の審理において、当初10か月間がパトカーのサイレンに関する争点についてのみ費やされたものではなく、その間、被控訴人において請求の拡張及び減縮があり、控訴人において医療記録の取寄せを申し出、同記録に基づいて素因減額の主張をするなどの整理を並行して行っていた。また、本件事故の現場における実況見分自体は令和2年4月7日に行われていたが(乙1)、当初は物損事故として処理されており(乙17)、被控訴人から同年12月15日に診断書の提出がされ、それによって人身事故に処理が変わったので(乙18)、令和3年1月10日に過失運転致傷被疑事件として正式に実況見分調書を作成したものであって、長期間、同調書の作成を懈怠していたものではない。そうすると、控訴人に不誠実な対応はないから、これを傷害慰謝料において考慮することはできない。
g 後遺障害慰謝料 0円
否認する。被控訴人には、本件事故による後遺障害はない。
h 弁護士費用
争う。
i まとめ
前記aからgまでの合計は138万1818円となるところ、上記(2)アのとおり50%の素因減額をすると、69万0909円となる。三井ダイレクトから被控訴人に支払われた人身傷害保険金は83万7303円で上記損害額を超えているから、被控訴人の本件事故による人身損害は支払済みとなる。
(イ) 物的損害
a 修理費・車両時価額 250万円
本件事故により被控訴人車両は損傷し、その修理費用として271万4888円を要するところ、本件事故当時の被控訴人車両の時価額は250万円であるから、経済的全損となる。
b 評価損 0円
上記のとおり被控訴人車両は全損であるから、その時価額が被控訴人車両の損害の上限である。評価損は認められない。
c 代車料 9万3170円
代車料9万3170円は認める。
d 弁護士費用 0円
争う。
e まとめ
前記aからcまでの合計259万3170円は、損害の填補となるスクラップ代15万円及び三井ダイレクトから支払われた車両保険金244万3170円の合計額と同額になる。したがって、被控訴人の本件事故による物的損害は支払済みとなる。
(ウ) 附帯控訴における請求
附帯控訴における請求は、上記(ア)及び(イ)のとおり争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(被控訴人の後遺障害の有無及びその程度)について
(1) 認定事実
後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 被控訴人は、東西道路を西から東に向かって被控訴人車両を運転して進行し、対面信号機が青色灯火信号であることを確認して、本件交差点に進入したところ、折から、南北道路を南から北に向かって進行し対面信号機が赤色灯火信号で本件交差点に進入した控訴人車両と、出合い頭に衝突した。具体的には、被控訴人車両の前方正面を12時方向とした場合、被控訴人車両の1時半の方向からフロントバンパー右に控訴人車両が衝突し、被控訴人車両は、本件交差点の北西角に進行方向から180度回転した状態で停止した。被控訴人車両は、控訴人車両との衝突により、フロントバンパー、左右のヘッドランプ、フード、左コーナーパネル、左フロントドアが損傷した。控訴人車両の衝突による衝撃は、被控訴人車両の右フロントピラーに強く入力し、左方にまで大きく波及した。(甲18、乙1、丙17)
イ 被控訴人は、衝突の衝撃で右側頭部をフロントピラーの手摺り付近にぶつけ、シートベルトが胸に食い込み、頭部や頚部が大きく揺さぶられ、意識ももうろうとした。しかし、遅い時刻であったことから、救急車を呼ぶことなくそのままパトカーで送ってもらって帰宅した。(甲18、原審における被控訴人本人)
ウ 被控訴人は、本件事故の翌日である令和2年4月7日、Eクリニックを受診した。被控訴人は、右側頭部を強打した、右こめかみ付近が腫れていて疼痛がある、右頚部後ろ側に鈍痛がある、上半身右側背部に鈍痛がある、頭痛があると訴えた。Eクリニックの医師は、被控訴人の傷病について、頚部挫傷、頭部挫傷、右肩挫傷、右背部挫傷及び右第8肋骨骨折と診断した。(乙16、丙7の1)
エ 被控訴人の本件事故頃の就労状況は、大型ダンプトラック(10トントラック)を運転して、主として愛知県、岐阜県及び三重県内でアスファルト合材や砕石などを配送する業務に従事しており、トラックの乗務時間は少なくても8時間、多いと休憩を挟みつつ24時間となるときもあった。被控訴人は、常時、頚が重いように感じており、特に下を向いたりしたときや、夕方や仕事の終わり、特に夜勤など労働時間が長時間に及んだときや仕事が多忙だったときなどには強い痛みが生じ、嘔気もあった。そこで、被控訴人は、上記ウ以降、Eクリニックを継続して受診した。(甲18、原審における被控訴人本人)
オ 被控訴人は、Eクリニックにおいて、令和2年4月10日の診察では、頭痛がある、右眼奥の方がガンガンすると訴え、右頚部の痛みは受傷時を10とすると4程度であるが、下を向くと痛みが出て気分が悪くなるなどと訴え、同月中は、頚部の痛みを7から8程度と訴えていた。被控訴人は、頚部について、同年5月27日の診察では痛みは7から8程度で重い感じが変わらずある、同年6月29日の診察では痛みは6程度で重たい感じがありたまに嘔気もある、同年7月31日の診察では頚部に違和感がある、同年8月31日の診察では大きく変わりがない、同年9月14日の診察では仕事で忙しくなると調子が悪くなる、頚部の痛みがでてくる、同月23日の診察では夕方がひどくなる、重い感じ、下を向くと痛む、痛みは5から6程度、同年10月30日の診察では痛みは5から6程度、仕事後痛みと嘔気が出るとそれぞれ説明した。(乙16、原審における被控訴人本人)
カ 被控訴人は、頚の痛みで長時間トラックに乗務するのは厳しく感じており、特に下を向いたりすると嘔気を催すこともあった。また、被控訴人は、頚の痛みは常時感じており、仕事が忙しかったり、終わる夕方になると特に強く痛みが出ると感じていた。被控訴人は、令和2年8月26日、Eクリニックの診察時に、仕事をセーブした方がいいのかを聞きたい、日勤はまだ大丈夫であると言ったところ、医師は無理しないことが大切と回答した。また、被控訴人は、同年9月25日、今後の治療法を聞きたいと受診したところ、医師はリハビリ中心で今後の治療をする、マッサージも可と回答した。Eクリニックの被控訴人の診療録の同年10月10日の欄には、ADLには現状支障がない旨の記載がある。(乙16、原審における被控訴人本人)
キ 令和2年10月30日の診察に基づくEクリニックの医師作成の同年11月6日付け自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書では、症状固定日が同年10月30日、傷病名が頚部挫傷、頭部挫傷、右肩挫傷、右背部挫傷、右第8肋骨骨折と、自覚症状が頚部痛及び右胸部痛と、他覚所見及び検査結果として、頚部痛は50から60%程度残存し、仕事後は特に嘔気出現するほど痛くなる、右第8肋骨骨折は挫傷に伴う疼痛は消失、頚部MRIで骨棘(C5/6、C6/7レベル)と、それぞれ記載されている。(甲11)
ク 令和2年4月7日に撮影された被控訴人の頚部レントゲン写真によれば、明らかな骨折、脱臼、アライメント不整は認められず、同年9月18日に撮影された被控訴人の頚部MRI矢状断像では、椎間板変性によるものと思われるC5/6、C6/7椎間板高の減少が認められたが、脊髄の圧排は認められず、同MRI水平断像では右C4/5、左C5/6及びC6/7の椎間孔狭窄所見が認められた。同日のMRI検査を実施したF病院の医師は、MRI画像について、C5/6、C6/7レベルの頚椎前方に軽い骨棘が認められるとの所見を示し、軽い変形性頚椎症と診断した。(甲12、乙12)
これらの画像鑑定をしたG医師(以下「G医師」という。)は、受傷翌日の頚椎レントゲン写真からは直接的に頚部痛の原因を指摘できる骨折や脱臼などの所見は認めない、C5/6、C6/7椎間の変性は受傷以前からあったものと推察される、受傷から5か月後の頚部MRI画像からは、右C4/5、左C5/6及びC6/7の椎間孔狭窄を認め、外傷により局所の神経障害を惹起し易い状態であったと考える旨の意見を述べている。(甲12)
ケ 被控訴人は、Eクリニックに通院中は、勤務先に対して、残業をなるべくしないような配車を求め、リハビリでの通院時はほぼ定時で勤務を終えていた。被控訴人は、現在でも長時間の乗務や厳しい内容の勤務については断ることもある。(原審における被控訴人本人)
(2) 検討
被控訴人の症状について、被控訴人は12級13号にあたると主張し、控訴人は後遺障害にあたらないと主張するので、以下検討する。
ア 被控訴人は本件事故により大きな衝撃を受け(前記(1)イ)、本件事故の翌日の診察では頚部挫傷等の診断を受け(同ウ)、被控訴人は常時頚の痛みを感じ、また頚が重いように感じ、長時間の仕事の後などには強い痛みが生じ嘔気もあったものであり(同エ、カ)、Eクリニックにおいて頚の痛みについて症状固定時まで5から6程度以上の痛みを訴え、仕事等により更に痛みが出てくる等を訴えており(同オ)、症状固定時の診察においても頚部痛を訴え、医師も頚部痛が受傷時と比較して50から60%程度残存し、仕事後は特に嘔気出現するほど痛くなるなどと診断している(同キ)。これに加え、被控訴人は、勤務時間や勤務内容について調整し(同ケ)、医師からは勤務について無理をしないよう言われており(同カ)、勤務時間や勤務内容にも影響が及んでいた。このように、被控訴人は、本件事故による受傷後から一貫して頚の痛みを訴え、症状固定時でもその痛みは受傷時と比べて50~60%程度で残っているのであり、それによって勤務に影響が及ぶほどのものであった上、本件事故の状況(同ア)に照らすと本件事故によって上記のような症状が残るほどの衝撃を受けたとしても不合理とはいえない。そうすると、被控訴人の症状(頚部痛)は、通常の労務に服することはできるが、受傷部位にほとんど常時疼痛を残すものということができ、14級9号の後遺障害にあたると認められる。
イ(ア) これに対し、被控訴人は12級13号にあたると主張する。
しかし、前記(1)クのとおり、本件事故翌日の頚部レントゲン写真では、頚部痛の原因となり得る明らかな骨折等が認められず、令和2年9月18日の頚部MRI画像では、軽い変形性頚椎症と診断されており、画像診断をしたG医師は、同画像で認められた椎間孔狭窄が外傷により局所の神経障害を惹起し易い状態であるが、C5/6、C6/7椎間の変性は受傷以前からあったものと推察している。以上によれば、本件事故によって上記の椎間孔狭窄が生じ、これによって被控訴人の症状が生じたとは認められず、したがって、被控訴人に12級13号にあたる後遺障害が残ったとは認められない。
さらに、被控訴人は、前記第2、4(1)アのように主張する。
たしかに、前記(1)アのとおり、本件事故による被控訴人車両の損傷が大きく、被控訴人は、同イのとおり本件事故によって大きな衝撃を受けたといえる。しかし、画像所見については上記で述べたとおりであり、被控訴人の症状が画像所見によって裏付けられているとは認められない。被控訴人の上記主張は採用できない。
(イ) 他方、控訴人は前記第2、4(1)イのように主張する。
たしかに、自動車損害賠償責任保険の損害保険料率算出機構は、被控訴人の症状について後遺障害にあたらないと判断し(前提事実(7)ア)、またEクリニックではADLには支障がないと診断されたりしているが(前記(1)カ)、前記のとおり、被控訴人は本件事故による受傷により常時の頚部痛を覚え、それが勤務に影響を及ぼし得る程度のものであると認められるから、14級9号にあたる後遺障害といえる。控訴人の上記主張は採用できない。
ウ したがって、被控訴人の頚部の症状については、14級9号にあたる後遺障害と認められる。
エ なお、被控訴人は、自動車損害賠償責任保険にかかる後遺障害の認定において、右胸部痛についても主張しているが(前提事実(7)イ)、証拠(甲11)によれば、Eクリニックの医師の後遺障害診断において、右第8肋骨骨折挫傷に伴う疼痛は消失していると診断されていることが認められる。したがって、右胸部痛については、後遺障害とは認めることができない。
2 争点(2)(素因減額又は既往症減額)について
控訴人は、前記第2、4(2)アのように主張する。
前記1(1)クのとおりG医師は、C5/6、6/7椎間の変性が本件事故前から存在していたと推察し、この推察には合理性があると認められるところ、その変性は軽度のものであり、前記1(2)で検討のとおり、この椎間孔狭窄によって被控訴人の神経症状が生じたとは認められないのであるから、素因減額又は既往症減額は認められない。
被控訴人の神経症状は前記1のとおり14級9号と認められ、G医師は、被控訴人の椎間孔狭窄が外傷により局所の神経障害を惹起し易い状態であったとの意見を述べるが(前記1(1)ク)、被控訴人の神経症状は14級9号に留まること、椎間孔狭窄は軽度のものであること、そもそも本件事故の態様、被控訴人への衝撃の大きさ等に照らすと、この椎間孔狭窄によって後遺障害14級9号にあたる程度に重篤化したとは認められないし、損害が拡大したとも認められない。
したがって、被控訴人について、素因減額又は既往症減額をすべきであるとは認められない。
3 争点(3)(被控訴人の損害の発生及びその数額)について【※愛知県警への追及に関する部分】
被控訴人が本件事故によって被った損害は次のとおりと認められる。
(1) 人身損害
ア 治療費 16万7940円
当事者間に争いがない。
イ 通院交通費 1737円
(ア) Eクリニック 1551円
証拠(丙13の1)によれば、被控訴人の自宅からEクリニックまでは片道0.55kmと認められる。ガソリン代を1kmあたり15円とするのが相当であるから、次のとおり1551円がEクリニックの通院交通費と認められる。
15×0.55km×2(往復)×94日=1551円
(イ) F病院 186円
当事者間に争いがない。
ウ 後遺障害診断書代 1万円
前記1のとおり、被控訴人には後遺障害の残存が認められるところ、証拠(甲14)によれば、後遺障害診断書の取得のために1万円を要したことが認められる。
エ 休業損害 1万5609円
証拠(甲16の1)によれば、被控訴人は本件事故により令和2年4月7日の勤務を欠勤し、その分の給与の支給を受けられなかったこと、被控訴人の本件事故前3か月の収入は109万2660円、稼働日数は70日であったことが認められるから、1稼働日あたりの収入は1万5609円と認められる。したがって、休業損害は、1万5609円と認める。
これに対し、被控訴人は、前記第2、4(3)ア(ア)dのように主張し、原審における本人尋問において、リハビリを受けている間は定時で勤務を終えていた、夜勤や残業ができないことで付加給が減ったなどと供述する。
しかし、付加給の計算式は証拠上明らかとなっておらず、給与支給明細書(甲23)によれば、調整給がこの付加給に相当するものと考えられるが、それ以外に、深夜手当、時間外手当、休日出勤手当等が別途支給されることになっている。また、証拠(甲21の1・2、丙15、原審における被控訴人本人)によれば、被控訴人の平成30年の収入は516万2643円、平成31・令和元年の収入は527万2920円、令和3年の収入は484万4404円であること、被控訴人は症状固定後にはリハビリを受ける等の通院をしていないことが認められる。これらの事実に照らすと、リハビリ通院を終え通常勤務に戻ったはずの令和3年の収入でも、事故前の平成30年や平成31・令和元年よりも減少していることとなるが、この収入の減少の理由が夜勤や残業ができなくなったことに起因するのかどうかが明らかとはいえない。以上によれば、被控訴人の上記主張は採用できない。
オ 逸失利益 120万7419円
被控訴人は、前記1のとおり14級9号の後遺障害が残っており、その症状の内容に照らすと、症状固定後5年にわたって労働能力を5%喪失したと認められる。上記エのとおり、被控訴人の本件事故の前年(平成31・令和元年)の収入は527万2920円であり、これを基礎収入額とすべきである。これに労働能力喪失率5%、年3%の5年のライプニッツ係数4.5797を用いて逸失利益を算定すると、次のとおり120万7419円となる。
527万2920円×5%×4.5797≒120万7419円
カ 傷害慰謝料 126万円
被控訴人が本件事故によって負った傷害の程度、通院期間等の事情を考慮すると、傷害慰謝料は126万円が相当である。
なお、控訴人の原審におけるサイレンの吹鳴に関する訴訟態度が慰謝料の増額事由にあたるかについて検討する。
証拠(甲15、乙2、4)によれば、控訴人車両は、本件交差点に入る約3から4秒前には赤色の警光灯を点灯させたこと、控訴人車両と被控訴人車両との接触後にサイレンが鳴っていたが、本件交差点進入時にはサイレンが鳴っていなかったこと、控訴人車両は、助手席の足踏み式サイレンスイッチを踏むことによって赤色の警光灯が点灯しサイレンが吹鳴する仕組みとなっていることが認められる。また、原審において、控訴人は、令和3年8月16日付けの準備書面(1)において、本件事故当時に控訴人車両の助手席に乗車していた警察官が、本件交差点手前で上記足踏み式サイレンスイッチを踏んだ旨主張し、更に控訴人車両に搭載のドライブレコーダーの映像(乙4)及びその解析結果(乙3、6)を提出したこと、被控訴人は令和3年9月30日に被控訴人車両に搭載のドライブレコーダーの映像(甲15)を提出し、同年11月10日付けの準備書面1において控訴人車両が衝突する時点までサイレンは吹鳴していなかったと主張したこと、控訴人が被控訴人車両のドライブレコーダーの映像及び音声を解析し、令和4年2月3日付けの準備書面(3)において本件事故前にサイレン音が検出できなかったことを認める主張をしたこと、上記の期間、控訴人が申し出た被控訴人の診療録の文書送付嘱託を採用して取り寄せる等の手続も並行して行っていたことは当裁判所に顕著である。
上記のとおり、控訴人は、当初は控訴人車両が本件交差点に進入する際にはサイレンが吹鳴していたことを前提とする主張をしていたが、被控訴人提出の証拠を踏まえ、本件事故前にサイレン音が検出できなかったことを認める主張に変更したに過ぎない。また、この争点に関する攻撃防御を行っている間、他の争点等についても並行して審理が行われてもいた。
さらに、証拠(乙1、17、18)によれば、本件事故の現場における実況見分自体は令和2年4月7日に行われていたが、当初は物損事故として処理されており、被控訴人から同年12月15日に診断書の提出がされ、それによって人身事故に処理が変わったので、令和3年1月10日に過失運転致傷被疑事件として正式に実況見分調書を作成したことが認められるところ、この経緯も不合理とはいえない。
これらの事情に照らすと、控訴人の原審における訴訟態度が、慰謝料の増額事由にあたるとは認められない。
キ 後遺障害慰謝料 110万円
被控訴人に残存した後遺障害の内容、程度等に照らすと、後遺障害慰謝料として110万円を認めるのが相当である。
ク 損害の填補 ▲83万7303円
被控訴人が三井ダイレクトから人身傷害保険金として83万7303円を受領したことは当事者間に争いがない。
ケ 小括
上記アからキまでの計376万2705円から上記クを控除すると、その残額は292万5402円となる。
被控訴人が本件訴訟の提起及び追行を弁護士に依頼して行った事実は当裁判所に顕著である。そして、本件に顕れた一切の事情を考慮すると、29万円が、本件事故(人身損害部分)との間に相当因果関係が認められる弁護士費用相当の損害と認められる。
(2) 物的損害
ア 修理費・車両時価額 271万4888円
証拠(甲3)によれば、本件事故により被控訴人車両は損傷し、その修理費用として271万4888円を要することが認められる。
これに対し、控訴人は、前記第2、4(3)イ(イ)aのように主張する。
たしかに、株式会社近藤鑑定事務所が作成した車両損害調査報告書(丙17)は、被控訴人車両を全損時価額250万円と評価しているが、これは、被控訴人が締結していた自動車保険の車両保険金の上限が250万円であったためであり(丙2)、実際の被控訴人車両の時価額を反映したものとは認められない。かえって、証拠(甲4、乙15)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人車両の時価額は、少なくとも上記修理費額を超えるものであると認められる。
イ 評価損 27万1489円
前記1(1)アのように被控訴人車両の損傷の程度、骨格部位であるフロントピラーの交換を要し(甲3)、一般財団法人日本自動車査定協会の基準では修復歴として扱われること(甲17)、被控訴人車両の初度登録が平成30年2月であること(甲2)などに照らすと、被控訴人車両を修理しても評価損が生じると認められ、それは修理費の10%である27万1489円と認められる。
ウ 代車料 9万3170円
当事者間に争いがない。
エ 損害の填補 ▲259万3170円
スクラップ代15万円及び三井ダイレクトから支払われた車両保険金244万3170円が損害の填補となることは当事者間に争いがない。
オ 小括
前記アからウまでの合計307万9547円から、上記エを控除すると残額は48万6377円となる。
被控訴人が本件訴訟の提起及び追行を弁護士に依頼して行った事実は前記(1)ケのとおりであり、本件に顕れた一切の事情を考慮すると、5万円が、本件事故(物的損害部分)との間に相当因果関係が認められる弁護士費用相当の損害と認められる。
4 まとめ
したがって、被控訴人の請求は、国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償として375万1779円及びこれに対する不法行為日である令和2年4月6日から支払済みまで同法4条、民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。
第4 結論
よって、原判決中、被控訴人に関する部分は一部失当であり、控訴人の控訴は一部理由があるから、上記第3、4の判断に従って原判決中、被控訴人に関する部分を変更し、控訴人のその余の控訴並びに被控訴人の附帯控訴及び当審における拡張請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 松村徹
裁判官 入江克明
裁判官 溝口理佳


