2021.09.15 更新

物損事故の示談金と交渉方法

このページでは、物損事故で請求できるお金、金額の相場、保険会社との交渉方法について解説します。

相談者(困り顔)
交通事故の物損のことで、相手方の保険会社とどのようにやりとりすればよいのか分かりません・・・
弁護士
たしかに分かりにくいと思います。では、保険会社にどのようなお金を請求できるのか、金額の決め方などを説明いたします。

物損事故で請求できるお金

修理可能な場合に請求できるお金>
修理代、評価損、代車代

修理不能な場合に請求できるお金>
車の買替代金、買替諸費用、代車代

以下の1~3のいずれかにあてはまる場合に修理不能と判断されて、買い替えとなります。

  1. 技術的に修理不能
  2. 「修理代」が「買替代金+買替諸費用」よりも高い
  3. 車体の本質的構成部分(フレーム・エンジン・車軸など)に重大な損傷

上記1,3の場合に、買い替えとなるのは当然です。ただし、納得がいかない場合は、修理業者から具体的な説明を受けるべきでしょう。

上記2の場合は、修理代と買替代金がそれぞれいくらかが重要になります。

修理代についてはこちら

買替代金についてはこちら

交渉では、修理代と買替代金をしっかり把握した上で、修理と買い替えのどちらにするべきかを、保険会社と交渉する必要があります。

なお、ごく例外的でありますが、以下の(イ)(ロ)のいずれかのような特別の事情があれば、買替代金を超える修理代を賠償できる場合があるとする裁判例もあります(東京高裁昭和57年6月17日判決)。
(イ)同種同等の車を中古車市場において取得することが至難である場合
(ロ)被害車両の所有者が車の時価額を超える高額の修理代を投じても修理して引き続き使用したいと希望することが社会観念上是認するに足る相当の事由がある場合

修理代

車の修理

修理業者に車を持ち込んで、修理代の見積もり金額を算定してもらいます。
そして、その見積もり金額について、保険会社と被害者が同意をすれば、その金額が修理代の賠償金額となります。

しかし、修理業者の見積金額に保険会社が同意をしない場合は、以下のうち問題となる点について、保険会社と交渉する必要があります。

  • 修理箇所が本件事故と関係があるか
  • 適正な工賃はいくらか
  • 過剰な修理でないか

修理箇所が本件事故と関係があるかについては、損傷と事故態様との整合性、過去の事故歴などをもとに交渉します。

適正な工賃については、保険会社がどの工賃分を問題にしているかを聞き取った上で、修理業者から説明を受けて、保険会社と交渉しましょう。修理業者とも話し合って、その工賃分を減額しても修理に支障がないと説明を受けた場合は、修理業者に減額してもらうことも考えられます。

過剰な修理でないかについては、そもそも、交通事故の物損では、どの程度まで修理をしてもらえるのかが問題になります。

この点について、岡山地方裁判所は、平成6年9月6日の判決で、「交通事故により車両が損傷した場合、加害者がどの程度まで修理すべきか問題となるが、厳密に事故前と全く同一の状態に復元修理することが多くの場合技術的に不可能なことに鑑みれば、社会常識的にみて、車両の異常が除去され事故前の状態に復したと認められる程度の義務を果たせば足りるものと解するのが相当である。」としています。

たとえば、損傷したドアは、新品に取り替えた方が、仕上がりは良いはずです。しかし、取り替えよりも板金の方が安く、板金によって、事故前のドアと全く同じ状態とはいえなくとも、「同じ程度」の状態にできる場合には、取替代金ではなく、板金代金までしか修理代として請求できません。
もちろん、板金によっては、事故前のドアと同じ程度の状態にできない場合には、取替代金を修理代として請求できます。

そこで、保険会社から、過剰な修理ではないかとの指摘を受けた場合は、修理業者に、他の修理方法をとる場合に予想される仕上がり内容と必要な金額を聞き取りましょう。その上で、事故前と「同じ程度」の状態にするために必要な金額について、保険会社と交渉する必要があります。

評価損

保険会社は、評価損の支払いに消極的であることが多いですが、以下の解説を読んでいただき、交渉に臨んでください。

評価損の種類

評価損には次の2種類があります。

  1. 技術上の評価損
    修理しても、技術上の限界から、事故車の機能や外観に欠陥が残る場合(もっとも、現在の修理技術の進歩により、技術上の評価損が生じることは多くないといわれています)
  2. 取引上の評価損
    技術上の評価損が生じていなくとも、事故歴があるという理由によって、事故車両の取引価格が下落する場合

中古車販売業者に表示義務のある修理箇所(フレーム(サイドメンバー)、クロスメンバ-、フロントインサイドパネル、ピラー(フロント、センター、リア)、ダッシュパネル、ルーフパネル、フロアパネル、トランクフロアパネル、ラジエータコアサポート)の場合には、取引上の評価損が認められやすいです。

評価損が請求できる場合

  1. 技術上の評価損がある場合
    その評価損を請求できます。
  2. 取引上の評価損がある場合
    外国車または国産人気車種は、初度登録から5年未満、走行距離は6万km以下、その他の車種は、初度登録から3年未満、走行距離は4万km以下の場合に、裁判では評価損が認められやすい傾向にあります。

このような裁判の傾向を踏まえて、保険会社と交渉することが重要です。

評価損の金額

  1. 技術上の評価損の場合
    自動車販売業者に、修理後の下取価格と、事故に遭わなかったとしたときの下取価格を、それぞれ記載した書面を作成してもらいます。そして、両者の下取価格の差額を請求します。
    または、財団法人日本自動車査定協会に、事故減価証明書を作成してもらい、それをもとに請求する方法もあります。
  2. 取引上の評価損の場合
    取引上の評価損は、修理代の一定割合とされることが多いです。
    なぜなら、大きな修理をするほど、評価損も大きくなるので、修理代と評価損は比例的な関係にあると考えられるからです。
    裁判例では、取引上の評価損を、修理代の2割から3割とされているものが比較的多いです。初度登録からの期間や走行距離が少ない場合は、高い割合となる傾向があります。

代車代

代車代を請求できないケース、代車代を請求できる期間、代車の車種について解説します。

代車代を請求できないケース

以下の場合には、代車代を請求することはできません。

  • 公共交通機関や必要に応じてタクシーを利用することにより、日常生活や仕事で特に支障がない場合
  • 実際に代車を使用しなかった場合

代車代を請求できる期間

代車代を請求できる期間は、次のとおりです。

  • 修理可能な場合
    修理に必要な相当期間。車種、年式、損傷状況などによりますが、多くの場合は2週間程度です。
  • 買い替えが必要な場合
    買い替えに必要な相当期間。多くの場合は1か月程度です。

さらに、修理や買い替えをする前に、保険会社と話し合いをした場合、その話し合いの期間が合理的な長さであれば、その期間分の代車代も請求することができます。

裁判例では「被害者が納得するための説明、交渉等に時間を要し、その結果、修理又は買換手続に着手する以前の交渉等に費やされた期間中に代車料が生じたとしても、それが、加害者(損害保険会社の担当者)の具体的な説明内容や被害者との交渉経過から見て、通常の被害者が納得して修理又は買換手続に着手するに足りる合理的な期間内の代車料にとどまる限り、加害者(損害保険会社)はその代車料についても当然に負担する責任を負わなければならない。」とされています(東京地裁平成13年12月26日判決)。

たとえば、保険会社のアジャスターが事故車を確認しに来ないために、修理に着手しないで待っていた期間の代車代は請求できると考えられます。

他方、交渉が長くなった原因が、被害者の過大な請求による場合などには、その期間の代車代の請求が認められない可能性があります。

交渉が決裂した場合には、その交渉決裂後から修理または買い替えに必要な相当期間までしか、代車代を請求することができません。

保険会社の担当者やアジャスターとの交渉の日時・内容は、メモをとっておくなどしておくことが大切です。

どのような車種の代車代を請求できるか

原則として、事故車と同程度のグレードの車種の代車代を請求できます。
しかし、高級外国車の場合は、国産高級車の限度で、代車代の請求を認めるのが裁判例の傾向です。

買替代金

車の売買

修理不能の場合、車の買替代金を請求できます。

車の買替代金は、車の時価になります。
その算定方法は、「原則として、これと同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額によって定めるべき」とされています(最高裁昭和49年4月15日判決)。

なお、保険会社は、減価償却の方法で車の時価の説明をしてくることがあります。しかし、そのような方法で車の時価を算定するには、被害者の同意が必要です。
なぜなら、上記最高裁判決は「右価格(時価)を課税又は企業会計上の減価償却の方法である定率法又は定額法によって定めることは、加害者及び被害者がこれによることに異議がない等の特段の事情のないかぎり、許されないものというべきである。」としているからです。

減価償却の方法に納得がいかない場合は、このような判例があるので同意しないと保険会社に伝えましょう。

では、車の時価は、具体的にはどのようにしてその金額を調べるとよいでしょうか。

被害者としては、インターネットの中古車販売サイトで、車種・年式・型、使用状態・走行距離等が事故車と近いものをいくつか調べてコピーし、それを保険会社に郵送して、車の時価(買替代金)について、交渉する方法が考えられます。
ただし、インターネットでの金額は、売り手の売却希望金額であって、成約金額とは異なるため、少し低めの金額が時価とされることがあります。

また、オートガイド社発行の「自動車価格月報」(レッドブックといわれるもの)や、一般財団法人日本自動車査定協会発行の「中古車価格ガイドブック」(イエローブックやシルバーブックといわれるものがあります)、中古車雑誌なども参考になります。
 
もっとも、インターネットやレッドブックなどで調べても、同等の車が見つからない場合もあります。
そのような場合の裁判例では、参考となる資料が乏しいことを理由に、減価償却の方法で算定したり、裁判官が諸々の事情(減価償却の方法では著しく低額になってしまう場合など)を考慮して相当額を決定したりしています。

買替諸費用

修理不能の場合、車の買替代金だけでなく、その購入に伴って支出を余儀なくされる買替諸費用も請求できます。
買替諸費用には以下のものがあります。

  • 請求できるもの(多くの裁判例が認めているもの)
    自動車取得税、自動車重量税、消費税、自動車登録番号変更費用、車庫証明費用、検査登録法定費用、車庫証明法定費用、納車費用、検査登録手続代行費用、車庫証明手続代行費用、リサイクル預託金
  • 請求できないもの
    自動車税、自賠責保険料(未経過分について還付制度があるため)、増加保険料

その他雑費

車の損傷から生じる損害には、他にも様々なものがあります。それらを請求できるかは、事案に応じて、個別に検討する必要があります。

保管料、レッカー代、時価査定料、交通事故証明交付手数料、廃車手数料、カーナビ・盗難防止装置移設費用などを請求できるとした裁判例があります。

具体的には、実際の物損事故の状況から常識的に考えて必要な出費といえれば、その費用は請求することができます。

営業用車両の休車損害

営業用車両(タクシー、貨物自動車、運搬車両など)が、修理や買替によって営業ができなかった場合には、営業を継続していたであれば得られたであろう利益の喪失分を休車損害として請求できます。

ただし、他にも営業車両があり、それを使って事故車両の休車損害を防ぐことができるような場合(つまり、遊休車両または余剰車両があった場合)には、休車損害を請求することはできません。

請求できる場合の金額は、事故車両の事故前の売上平均から、経費(燃料費・乗務員人件費など)を差し引いて計算します。

休車損害を請求できる期間は、修理可能な場合には修理に必要な相当期間、買い替えが必要な場合には買い替えに必要な相当期間です。さらに、修理や買い替えをする以前の保険会社との交渉に要する合理的な期間の分も請求できます。

物損の慰謝料は原則として請求できない

裁判例では、原則として物損による慰謝料の請求は認められていません
なぜなら、ケガや死亡の場合と異なり、物損の場合、通常、修理代や買換費用などによって財産的損害を回復することで十分と考えられているからです。

しかし、例外的に、被害者のその物に対する特別の愛情が侵害されたり、精神的平穏を強く害されるような特段の事情がある場合には、物損による慰謝料の請求が認められることもあります(東京地裁平成元年3月24日判決など)。

たとえば、飼われている動物(法律上は「物」として扱われます)の死亡の場合には飼い主に慰謝料を認める裁判例があります。もっとも、数万円から数十万円と低い金額にとどまることが多いです。

また、被害車両が、愛着のあるクラシックカーなどであり、中古車市場では再取得が不可能な場合などには、慰謝料が認められる可能性もあります。

新車の場合は新車の買替代金を請求できないのか

新車であっても、いったんナンバープレートが付いてしまうと、いわゆる登録落ち(車検落ち、ナンバー落ち)が生じて、車両価格が下落するといわれています。
そのため、新車の買替代金の請求は認めず、あくまで中古車としての時価の請求しか認めない裁判例が多いのが現状です(新車引渡しの20分後の事故で新車の買換代金の請求を認めなかった東京地裁平成12年3月19日判決など)。

過失割合の分は減額される

物損では、自分の過失割合(落ち度)の分は減額されます。

たとえば、自分と相手の過失割合が20対80で、自分の車の修理代が100万円の場合、相手に請求できる修理代は100万円✕80/100=80万円にとどまります。

また、相手の車の損害のうち自分の過失割合分の請求を受けることになります。たとえば、相手の車の買替費用が200万円の場合、相手方から200万円✕20/100=40万円の支払いをしなければなりません。

過失割合を調べたい方はこちら

このページの執筆者
弁護士 深田茂人(大分県弁護士会所属、登録番号33161)
大分市城崎町の深田法律事務所代表。
弁護士歴15年、交通事故の相談を800件以上担当してきました。交通事故被害者と保険会社の情報格差をなくしたいと思い、当サイトにて執筆しています。