2021.04.09 更新

交通事故での健康保険の利用

健康保険証

交通事故のケガでも健康保険を使いましょう。
ただし、労災保険が使える場合は、労災保険を使いましょう。

交通事故のケガでも健康保険は使えます

病院の窓口で、交通事故のケガでは健康保険は使えないと説明されることがまれにありますが、この説明はまちがいです。

交通事故のケガで治療を受けるときでも、健康保険、国民健康保険、公務員共済、船員保険が使えます。
なぜなら、法律(健康保険法、国民健康保険法、国家公務員共済組合法、地方公務員等共済組合法、船員保険法)が、交通事故のケガを除外していないからです。

一部の病院では、健康保険を使わずに自由診療で治療をすると利益が大きくなるため、この点について間違った説明をすることがあるようです。
健康保険を使うと、治療費の7割分が公的機関(協会けんぽ等)から支払われます。その関係上、治療費の計算方法が法律で定められています。たとえば、ある手術や検査の場合は診療報酬点数は6万点となって、1点あたり10円となっているから、治療費は60万円になるというように計算されます。
しかし、自由診療の場合は、1点あたり何円とするかは病院の裁量で決められますから、仮に1点20円とした場合、診療報酬6万点の治療費は120万円になります。

どうしても、病院が健康保険の利用に応じない場合は、以下の通達や判例を窓口の方に柔らかく伝えてみましょう。

厚生省1968年10月12日保険発第106号「健康保険及び国民健康保険の自動車損害賠償責任保険等に対する求償事務の取扱いについて」
「最近、自動車による保険事故については、保険給付が行われないとの誤解が被保険者等の一部にあるようであるが、いうまでもなく、自動車による保険事故も一般の保険事故と何ら変りがなく、保険給付の対象となるものであるので、この点について誤解のないよう住民、医療機関等に周知を図るとともに、保険者が被保険者に対して十分理解させるよう指導されたい。」

大阪地方裁判所昭和60年6月28日判決
「国民健康保険法は、被保険者の疾病、負傷、出産又は死亡に関して必要な保険給付を行うことを目的とし・・・同法に基づく療養保険給付は絶対的必要給付であって・・・交通事故により負傷、疾病した被保険者に対し、療養保険給付が行われなければならないことは当然であって、これを排斥すべき理由はない。」

仕事中や通勤途中の交通事故の場合は労災保険を使いましょう

労働者(正社員・アルバイトなど)は、仕事中や通勤途中に交通事故に遭った場合、健康保険ではなく労災保険を使います。
公務員も、国家(地方)公務員災害補償法によって労災保険と同様の補償が受けられます。

個人事業主は、労災保険に特別加入していれば、労災保険を使うことができます。労災保険に特別加入しておらず、国民健康保険に加入していれば、国民健康保険を使えます。

法人の役員は、労災保険に特別加入していれば、労災保険を使うことができます。健康保険の適用事業所であって、被保険者が5人未満である法人の役員は、役員本来の業務をしていたのではなく、従業員がするのと同じような業務をしていたときの事故で、労災保険に特別加入していない場合は、健康保険を使うことができます(健康保険法第53条の2、同法施行規則第52条の2)。

詳しくは労災保険のページをご覧ください。

交通事故で健康保険を使うメリット

交通事故では、治療費を払う立場にあるのは加害者だから、加害者の保険(任意保険や自賠責保険)を使うべきであって、被害者の保険(健康保険)を使わない方がよいのではないかと質問されることがしばしばあります。
しかし、以下の場合には、健康保険を使った方が被害者にとって有利になります。

被害者に過失割合がある場合

たとえば、被害者の過失割合が30%の交通事故で、治療の診療報酬点数が6万点だったとしましょう。

健康保険を使うと、1点あたり10円なので、治療費は60万円になります。その内の7割は健康保険に払ってもらい、自己負担分3割の18万円を加害者側の任意保険会社に払ってもらいます。しかし、18万円✕被害者の過失割合30%=5万4000円は、任意保険会社が払いすぎた計算になるので、示談の際に慰謝料などから差し引かれることになります。

他方、健康保険を使わずに自由診療にすると、仮に病院が1点20円としている場合、診療報酬6万点の治療費は120万円になり、この金額を加害者側の任意保険会社に払ってもらうことになります。しかし、120万円✕被害者の過失割合30%=36万円は、任意保険会社が払いすぎた計算になるので、示談の際に慰謝料などから差し引かれることになります。

このように、被害者に過失割合がある場合は、健康保険を使った方が、示談の際に慰謝料などから差し引かれる金額が少なくて済みます。

加害者が任意保険に加入していない場合

加害者が、任意保険に加入しておらず、支払能力がない場合、被害者は、最低限の補償である自賠責保険の金額しか受け取れないことがあります。
自賠責保険では、傷害の保険金額の上限は120万円です。
自由診療にしてしまうと、治療費が高額になる分、この上限120万円を使い切ってしまいやすくなり、その分、被害者が受け取れる自賠責保険の金額が減ってしまいます。

健康保険と加害者の保険(任意保険や自賠責保険)は併用できます

被害者の健康保険は、加害者の保険(任意保険や自賠責保険)と併用して使うことができます。
併用して、加害者側の任意保険会社に窓口の3割負担分を支払ってもらい、7割負担分を健康保険に支払ってもらいましょう。
その後、健康保険が、加害者側の任意保険会社に対して、病院に支払った分(そのうちの加害者側の過失割合分に限る)を請求します。これを求償といいます。

このように、健康保険から治療費が払われたからといっても、加害者側の保険会社がその分の負担をしなくて済むわけではありません。

健康保険の使い方

病院で健康保険証を提示し、健康保険を使いたい旨を明確に申し出て下さい。

交通事故の場合は、「第三者行為による傷病届」を全国健康保険協会の支部または健康保険組合に提出します。
これは、健康保険が、病院に支払った7割分のうち加害者側の過失割合に相当する金額を、加害者側の任意保険会社に対して請求するために必要となる届け出です。
通常は、任意保険会社が手続きを主導してくれますので、念のため、手続きがきちんとできているかを担当者に確認しましょう。

傷病手当金などのその他の給付についても、全国健康保険協会の支部または健康保険組合に、所定の書類を提出して申請します。 

健康保険で給付される主なお金

健康保険で給付される主なお金は、以下のとおりです。

療養の給付

ケガをしたときに、健康保険を使って治療を受けることです。健康保険から病院に7割分が支払われます(ただし、高齢者等の場合は自己負担割合が低くなります)。

療養費

以下の例のように保険診療を受けることが困難な場合などに、治療費をいったん自費で支払った後、健康保険から治療費の一部が支払われます。

(療養費の例)
・事業主が資格取得届の手続き中で、被保険者証が未交付の場合
・医師の指示により、義手・義足・義眼・コルセット・サポーター等を装着した場合
・生血液の輸血を受けた場合
・はり、きゅう、あんま、柔道整復師等から施術を受けた場合

高額療養費

健康保険によって3割負担で済むとはいえ、治療が長引けばかなりの額になってしまいます。そのため、3割負担が一定の額に達した場合、それ以上の額が高額療養費として支給されます。

入院時食事療養費

入院した場合に支給される食事(現物給付)です。

保険外併用療養費

保険の適用がない高度な医療を受けたり、個室ベッドを使用したりした場合でも、その高度な医療等の部分以外の治療費等については、健康保険が適用されます。

傷病手当金

ケガで働けないときの生活費が支給されます。休業4日目から1年6ヶ月間支給されます。月給の平均額を30日で割った額の3分の2に相当する額が1日あたり支給されます。

このページの執筆者
弁護士 深田茂人(大分県弁護士会所属、登録番号33161)
大分市城崎町の深田法律事務所代表。
弁護士歴15年、交通事故の相談を800件以上担当してきました。交通事故被害者と保険会社の情報格差をなくしたいと思い、当サイトにて執筆しています。