2021.04.09 更新

交通事故での労災保険の利用

労災申請書類と松葉杖

交通事故で労災保険を使えるケース、労災保険を使うメリットとデメリット、もらえるお金、賠償金との調整、労災保険の手続きについて解説します。

仕事中や通勤途中の交通事故は労災保険が使えます

労働者であれば、仕事中や通勤途中の交通事故でケガをした場合、労災保険を使うことができます。
労働者とは、会社や個人事業主などに雇われて、お給料をもらって仕事をする人のことです。正社員・派遣社員・アルバイトなどを問いません。

個人事業主や法人の役員が、仕事中や通勤途中の交通事故でケガをした場合は、労災保険に特別加入していれば、労災保険を使うことができます。

労災保険を使える場合、健康保険や国民健康保険は使えません。

以下、分けて解説します。

労働者(正社員・アルバイトなど)の場合

労働者は、労災保険を使えます。
公務員は、国家(地方)公務員災害補償法によって、労災保険と同様の補償が受けられます。

個人事業主の場合

労災保険に特別加入していれば、労災保険を使うことができます。
労災保険に特別加入しておらず、国民健康保険に加入していれば、国民健康保険を使えます。

法人の役員の場合

労災保険に特別加入していれば、労災保険を使うことができます。

健康保険の適用事業所であって、被保険者が5人未満である法人の役員は、役員本来の業務をしていたのではなく、従業員がするのと同じような業務をしていたときの事故で、労災保険に特別加入していない場合は、健康保険を使うことができます(健康保険法第53条の2、同法施行規則第52条の2)。

仕事中や通勤途中の交通事故といえるためには

仕事中や通勤途中の事故でなければ、労災保険を使うことはできません。

<通勤途中の事故といえるかの判断が難しい例>

  • 通勤途中に惣菜を買いにスーパーに寄る際の事故
    日用品の購入であり、スーパーへの寄り道が最小限度の範囲といえれば、通勤途中として労災が使えます。
  • 通勤の途中で帰宅経路から外れてデートに向かったときの事故
    通勤途中の事故とはいえず、労災が使えない可能性があります。

このような判断が難しいケースでは、弁護士に相談することをお勧めします。

交通事故で労災保険を使うメリット

交通事故で労災保険を使うメリットには、次の3つがあります。

  1. 被害者に過失割合がある場合でも、労災保険金は減額されない。
    交通事故の賠償金は、被害者の過失割合の分が減額されます。しかし、労災保険金は過失割合によって減額されることがありません(詳しくは、後述の労災保険でもらったお金は賠償金から差し引かれるかをご覧ください)。
  2. 加害者側の保険会社から治療費や休業損害をもらえない場合に便利
    加害者が保険に加入していなかったり、保険には加入していても事故の責任を認めていなかったりすると、保険会社から治療費や休業損害を支払ってもらえないことがあります。
    そのような場合に、労災保険を使えば、治療費や休業損害が自費にならなくてすみます。
  3. 特別支給金をもらえる。
    後述の労災保険でもらえるお金のとおり、特別支給金をもらえます。
    特別支給金は、加害者側の保険会社に請求する賠償金から差し引かれることはなく、別にもらえるものです。

交通事故で労災保険を使うデメリット

労災保険を使うデメリットはありません。

しいて言うなら、手続きが少し面倒ということです。
後で解説しているように、提出する書類が複数あり、少しややこしいです。

なお、労災保険からは、慰謝料がもらえず、休業補償も全額はもらえませんが、デメリットというほどのものではありません。
なぜなら、自賠責保険や任意保険と併用すれば、これらの保険から、労災保険ではもらえない分をもらえるからです。

労災保険でもらえるお金

労災保険でもらえるお金には、以下のものがあります。
なお、仕事中の事故の場合にもらえるお金を「~補償給付」通勤途中の事故の場合にもらえるお金を「~給付」(以下の括弧内)といいます。

①療養補償給付(療養給付)=ケガの治療費

原則として、労災指定病院に入通院して、病院に治療費が直接支払われます。
近くに労災指定病院がない場合などは、いった自己負担で病院に治療費を全額支払い、後日その費用全額を労災保険から受け取ることになります。

②休業補償給付(休業給付)=ケガで働けないときの生活費

休業4日目から支給されます。
支給額は、1日あたり、給付基礎日額の60%に相当する金額です。大ざっぱにいうと、直近の3ヶ月の給料の1日の平均額の60%に相当する額が1日あたり支給されます。
なお、後述のとおり、「休業特別支給金」として、さらに20%に相当する金額が支給されます。

③傷病補償年金(傷病年金)=治療が長期間になった場合に休業補償給付(休業給付)の請求手続きを簡単にしてくれるもの

休業補償給付(休業給付)は、請求するたびに、治療中のために働けないことを医師に証明してもらうなどの手続きをとる必要があります。
治療が長期間になる場合には、その手続きが大変なので、労働基準監督署の決定によって、傷病補償年金(傷病年金)に切り替わり、手続きが簡単になります。

休業補償給付から傷病補償年金に切り替わる場合
・治療開始から1年6ヶ月が経過してもケガが治らず、
・ケガの程度が厚生労働省令の定める傷病等級1~3級に該当する場合

④障害補償給付(障害給付)=後遺症が仕事に影響して稼ぎにくくなったお金

ケガが完治せずに後遺症が残り、後遺障害等級が認定された場合に給付されます。
後遺症の程度によって、等級が1~14級に分けられています。1~7級では年金(障害補償年金)が給付され、8~14級では一時金(障害補償一時金)が給付されます。

⑤介護補償給付(介護給付)=介護を要する場合の介護費用

③の傷病補償年金または④の障害補償年金を受ける権利があり、常時または随時介護を要する場合に給付されます。

⑥遺族補償給付(遺族給付)=被害者が亡くなられた場合に遺族に対して給付されるお金

以下のとおり、遺族補償年金と遺族補償一時金の2種類があります。亡くなられた方とご遺族の続柄や年齢、亡くなられた方に生計を維持されていたかなどによって、いずれかが給付されます。

遺族補償年金

ご遺族が、亡くなられた方の収入によって生計を維持されていた場合に、給付される年金です。
ただし、妻以外のご遺族は、一定の年齢や障害のあることも要件になっています。
このような生計維持等の要件を満たしたご遺族のうち、以下の順で優先する方に支給されます。
(1)配偶者 (2)子 (3)父母 (4)孫 (5)祖父母 (6)兄弟姉妹

*遺族補償年金前払一時金
遺族補償年金は偶数月ごとに支給されるのが原則ですが、給付基礎日額の1000日分を限度として前払いを受けることもできます。

遺族補償一時金

遺族補償一時金は、遺族補償年金を受け取ることができるご遺族がいないときや、そのご遺族が亡くなられるなどして遺族補償年金の受給資格者がいなくなった場合で、それまでに支給された遺族補償年金および遺族補償前払一時金の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たないときに支給されます。

⑦葬祭料(葬祭給付)=被害者が亡くなられた場合の葬儀費用

次のいずれか高い方が支給されます。
・315,000円+給付基礎日額の30日分
・給付基礎日額の60日分

⑧特別支給金

休業特別支給金

②の休業補償給付(休業給付)と同時に申請します。休業特別支給金は、休業4日目から、1日あたり給付基礎日額の20%に相当する金額が支給されます。大ざっぱにいうと、直近の3ヶ月の給料の1日の平均額の20%に相当する額が1日あたり支給されます。

傷病特別支給金

③の傷病補償年金(傷病年金)を受ける者は、該当する傷病等級に応じた額の特別支給金を受け取ることができます。

障害特別支給金

④の障害補償給付(障害給付)を受ける者は、該当する障害等級に応じた額の特別支給金を受け取ることができます。ただし、傷病特別支給金を受け取った者が、その後、障害特別支給金を受け取るときは、金額の調整がなされます。

遺族特別支給金

⑥の遺族補償給付(遺族給付)を受ける者は、300万円の遺族特別支給金を受け取ることができます。

ボーナス特別支給金

ボーナスを労災の支給額に反映させるための支給金です。

傷病特別年金

③の傷病補償年金(傷病年金)を受ける者が受け取ることができます。

障害特別年金・障害特別一時金

障害特別年金は、障害補償年金(障害年金)を受ける者が受け取ることができます(④参照)。
障害特別一時金は、障害補償一時金(障害一時金)を受ける者が受け取ることができます(④参照)。

障害特別年金差額一時金

障害補償年金差額一時金(障害年金差額一時金)を受ける遺族が受け取ることができます。

遺族特別年金

遺族補償年金(遺族年金)を受ける者が受け取ることができます(⑥参照)。

遺族特別一時金

遺族補償一時金(遺族一時金)を受ける者が受け取ることができます(⑥参照)。

慰謝料は労災からは給付されません。

慰謝料(入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料)は、労災保険からは給付されません。
自賠責保険や任意保険を併用して、これらの保険から慰謝料を支払ってもらうことになります。

労災保険でもらったお金は賠償金から差し引かれるか

労災保険でもらったお金は、加害者側の保険会社に請求する賠償金から、差し引かれます。
ただし、常に全額が差し引かれるとは限りません。差し引くにあたっては、以下のルールがあります。

  1. 被害者に過失割合があっても、労災保険金が減額されることはない。
  2. 労災保険金が賠償金から差し引かれる費目は同種のものに限る(たとえば、労災保険金のうちの休業補償給付が、賠償金のうちの慰謝料から差し引かれることはありません)。

詳しくは、既払い金のページの「労災保険から支払われたお金」の項をご覧ください。

労災保険を使う手続き

労災保険を使うことができる場合、健康保険や国民健康保険を使うことはできないので、注意が必要です。
以下、労災保険を使う手続きについて解説します。

治療費をもらう場合

労災指定病院で治療を受ける場合は、病院で労災保険を使いたい旨を申し出て下さい。その後、病院に「療養補償給付(療養給付)たる療養の給付請求書」を提出して下さい。

労災指定病院ではない病院で治療を受ける場合は、治療費はいったん全額支払っておき、病院で「療養補償給付(療養給付)たる療養の費用請求書」に診療内容を記載してもらいます。
そして、この費用請求書に治療費の領収書を添付して、労働基準監督署に提出すれば、数ヶ月後に、支払った治療費全額が振り込まれます。

治療費以外のお金をもらう場合

休業給付や障害給付など、その他の給付をもらう場合も、労働基準監督署に、所定の書類を提出して請求します。

申請書類

上記の各書類は、労働基準監督署で書式をもらうことができます。
また、記入方法についても詳しく教えてもらうことができます。

交通事故の場合は、「第三者行為災害届」も労働基準監督署に提出します。
本来、加害者が損害の全てを賠償すべきです。ですので、労災保険が被害者に療養などの給付をした場合、加害者に代わって立て替えたということになります。そこで、労災保険は、その分の金額を加害者に対して返還を求めることになります。「第三者行為災害届」はその手続のために必要になります。

任意保険と労災保険の併用ができます

労災保険と任意保険は併用できます。つまり、治療費(療養給付)などの労災保険金を受け取り、労災保険金から受け取っていない慰謝料などのお金を任意保険会社から受け取ることができます。

もっとも、治療中は、労災保険と任意保険のどちらが病院に治療費の支払いをするか確定しなければ混乱してしまいますので、労災保険と任意保険のどちらを先に使うのかを被害者が決める必要があります。

労災保険金は過失割合による減額がなされなかったり、特別支給金は保険会社からの賠償金とは別にもらえたりするので、労災保険と任意保険を併用するメリットはあります。

詳しくは、前述の労災保険でもらったお金は賠償金から差し引かれるかをご覧ください。

任意保険や自賠責保険よりも労災保険を先に使うこともできます

被害者の過失割合が大きい場合、治療費が高額な場合、加害者が任意保険に加入していない場合、加害者が自己の責任はないと主張している場合などは、労災保険を先に使った方がよいと考えられます。

なお、厚生労働省は「労災保険の給付と自賠責保険の損害賠償額の支払との先後の調整については、給付事務の円滑化をはかるため、原則として自賠責保険の支払を労災保険の給付に先行させるよう取り扱うこと」(基発第1305号)との通達を出しており、労働基準監督署の窓口でそのような指導をされることは多いです。
しかし、自賠責の先行はあくまで「原則として」であり、被害者にとっては労災保険を先に使った方が有利な場合もあります。
そこで、厚生労働省は、第三者行為災害事務取扱手引(厚生労働省労働基準局平成17年2月)で、「自賠責先行の原則を踏まえつつ、第一当事者等の意向が労災保険を希望するものであれば、労災保険の給付を自賠責保険等による保険金支払よりも先行させることとしているところであるが、労災保険の給付請求と自賠責保険等の保険金支払請求のどちらを先行させるかについては、第一当事者等がその自由意思に基づき決定するものであるため、その意思に反して強制に及ぶようなことのないよう留意すること」としています。

手続きとしては、労働基準監督署へ「労災保険先行申出書」を提出することにより、自賠責保険よりも労災保険を先に使うことができます。

任意保険から労災保険への切り替え

保険会社が治療費を打ち切ってきた場合、その後の治療費を労災保険に払ってもらうことが考えられます。

治療費は、保険会社であれ、労災保険であれ、次の1,2のうち早い日までしか支払ってもらうことができません。

  1. 完治した日
  2. 治療の効果があった最後の日(完治せずに後遺症が残った場合)

この1,2についての労働基準監督署の判断が、保険会社と同じであれば、労災保険に切り替えても治療費を支払ってもらえません。

しかし、保険会社の打ち切りが早すぎると考えられる場合は、労災保険から治療費を支払ってもらえる可能性があります。
その場合には、労働基準監督署で申請書類をもらい、療養補償給付(療養給付)の申請をしましょう。

会社が労災の利用に協力的でない場合

仕事中の事故の場合に労災を利用すると、保険料が上がるなどのペナルティが会社に生じる可能性があります。そのため、会社が労災の利用に協力的でないことがあります(労災隠しは犯罪になる可能性があります)。

通勤途中の事故の場合は、会社にペナルティはありませんが、手続きが面倒なために、会社が協力的でないこともしばしばあります。

このように、会社が労災の利用に協力的でない場合でも、労働基準監督署にそのことを伝えれば、手続きを進めることができます。

このページの執筆者
弁護士 深田茂人(大分県弁護士会所属、登録番号33161)
大分市城崎町の深田法律事務所代表。
弁護士歴15年、交通事故の相談を800件以上担当してきました。交通事故被害者と保険会社の情報格差をなくしたいと思い、当サイトにて執筆しています。