大分市城崎町の深田法律事務所代表。
弁護士歴18年、交通事故の相談を1000件以上担当してきました。交通事故被害者と保険会社の情報格差をなくしたいと思い、当サイトにて執筆しています。
過失割合の基準は、交通弱者が被害者であることが前提
更新日:2024年07月18日
交通事故の過失割合は、法律文献で、典型的な事故態様ごとに基準となる過失割合が公表されています。
有名な文献は、次の2つです。
- 「別冊 判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版」(東京地裁民事交通訴訟研究会編 判例タイムズ社)
- 「赤い本 弁護士必携 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 上巻(基準編)2021年(令和3年)版」(日弁連交通事故相談センター東京支部)
当サイトで公表している過失割合も、これらを含めた各種法律文献を参考にして、弁護士が検討したものです。
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ただし、注意を要するのは、これらの法律文献や当サイトの基準化された過失割合は、交通弱者が被害者である事故を前提としているということです。
たとえば、歩行者が道路を横断中に車と衝突した事故の過失割合が、基準によると、歩行者:車=20%:80%であるとしましょう。
この場合、交通弱者である歩行者が被害者であれば、その治療費や慰謝料などを車側に請求する金額の計算には、上記のような基準となる過失割合を使うことができます。
具体的には、歩行者の治療費や慰謝料などの総額が1000万円とした場合、1000万円×80%=800万円を歩行者は請求することになります。
しかし、上記の事故において、車の運転手が急ブレーキを踏んだ際に足首を痛めた場合、その治療費や慰謝料などを請求する金額の計算には、基準となる過失割合を使うことができません。
具体的には、運転手の治療費や慰謝料などの総額が300万円とした場合、300万円×20%=60万円を運転手が歩行者に請求できるとは限りません。
このように、基準化された過失割合は、交通弱者である歩行者が車の運転手に対して賠償金請求をする場合の計算には使えますが、交通弱者ではない車の運転手が歩行者に対して賠償金請求する場合の計算には使えません。
その理由は2つあります。
1つ目の理由は、歩行者の過失割合が20%あるといっても、そもそも歩行者が賠償義務を負っているとは限らないためです。
賠償義務は過失によって他人の身体や財物を害した場合に負いますが、その「過失」と過失割合の「過失」は別物と考えられています。前者の「過失」は他人を害さないための法的な注意義務ですが、後者の「過失」は損害の公平な分担をはかるための被害者側の不注意であって、両者は異なるものです。
損害の公平な分担をはかるための被害者側の不注意が20%とされても、他人を害さないための法的な注意義務を怠ったといえなければ、歩行者が賠償義務を負うことはありません。
2つ目の理由は、過失割合の基準には、公平を害さない範囲で、交通弱者をできるだけ救済するという価値判断が含まれているためです。
歩行者と車の事故では通常被害を受けるのは、交通弱者である歩行者です。そのため、その過失割合の基準は、歩行者が被害者として賠償請求をする場面を想定して決められており、車側が被害を受けた場面を想定したものではありません。
そのため、車が歩行者に賠償請求をするにあたっては、
- そもそも歩行者が賠償義務を負うのか
- 歩行者が賠償義務を負う場合、その過失割合は別途検討する
という手順をとらなければなりません。
このように、歩行者と車の事故の過失割合の基準は、交通弱者である歩行者が被害者であることを前提としたものです。
車側が被害者であるとして歩行者に賠償請求する場面では、過失割合の基準は使えないということになります。
同様に、
- 自転車と車の事故の過失割合の基準は、交通弱者である自転車が被害者であることを前提としています。
- 単車と四輪自動車の事故の過失割合の基準は、交通弱者である単車が被害者であることを前提としています。
もっとも、
- 四輪自動車同士の事故の過失割合の基準は、いずれの四輪自動車が被害者であっても使えます。
- 単車同士の事故の過失割合の基準は、いずれの単車が被害者であっても使えます。
そこで、専門的には、交通強者の過失割合(%)は表示せず、交通弱者の過失割合(%)のみを表示することも多くあります。
もっとも、保険会社とのやりとりでは、両者の過失割合(%)を示して表現されることがよくありますので、当サイトでもそのように表記しています。
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