大分市城崎町の深田法律事務所代表。
弁護士歴18年、交通事故の相談を1000件以上担当してきました。交通事故被害者と保険会社の情報格差をなくしたいと思い、当サイトにて執筆しています。
主婦などの家事従事者の後遺症逸失利益
更新日:2021年12月06日
- 後遺症の影響で家事の能率が下がっています。
- 家事従事者も「後遺症逸失利益」を保険会社に請求することができます。
計算方法
家事労働は、外部の人に頼めばお金がかかるので、金銭に換算することが可能といえます。
また、家事従事者が後遺症のために家事がしにくくなった場合、その分、家事がおろそかになって家族に不都合が生じたり、他の家族が代わりに家事をしなければならなかったりします。
そのため、外部の人に頼んでお金がかかるようになったかどうかにかかわらず、家事従事者が後遺症のために家事をしにくくなった分は、お金に換算して、後遺症逸失利益として保険会社に請求することができます。
弁護士基準では、「女性の平均年収」に「後遺症のために家事がしにくくなった割合(労働能力喪失率)」をかけ算して、1年分の家事がしにくくなった損失を金銭換算します。
それに、「後遺症が家事に影響する年数(労働能力喪失期間)のライプニッツ係数」をかけ算して後遺症逸失利益の金額を算出します。
(弁護士基準とは、過去の裁判例に基づく計算方法であり、最も金額が高くなります。)
女性平均年収✕労働能力喪失率✕労働能力喪失期間のライプニッツ係数
以下では「年収」「労働能力喪失率」「労働能力喪失期間のライプニッツ係数」の順に解説します。
年収
家事労働をお金に換算するために、弁護士基準では女性の平均年収を使用します。
本サイトの慰謝料などの賠償金自動計算機では、令和元年の女性の平均年収388万0100円で計算されます。
もっとも、家庭によって家事の内容は異なります。
子の有無・人数・年齢、介護を必要とする人の有無や状況、他に家事を分担してくれている人がいるかなどにより家事労働の重さもさまざまです。
そのため、女性平均年収で計算するのは一般的な家族構成の場合であり、それとの違いによって女性平均年収よりも増減させて計算するべきといえます。
とはいえ、一般的な家族構成を想定するのは難しいので、実際には多くのケースで女性平均年収が使用されています。
労働能力喪失率
労働能力喪失率とは、後遺症のために家事がしにくくなった割合のことです。
弁護士基準では、次表のとおりです。
労働能力喪失期間のライプニッツ係数
労働能力喪失期間とは、後遺症が家事に影響する年数のことです。
67歳までの年数とされるのが原則です。
ただし、高齢者の場合は平均余命までの2分の1の年数とされます。
ライプニッツ係数でかけ算するのは、将来にわたって失われるであろうお金(=金銭換算された家事労働)をすぐに請求するため金利を差し引く必要があるからです。
なお、民法が改正されたことにより、事故日が2020年3月31日以前の金利は年5%、2020年4月1日以後の金利は年3%とされていますので、それぞれのパーセンテージに応じたライプニッツ係数で計算することになります(たとえば15年の場合、5%のライプニッツ係数は10.3797、3%のライプニッツ係数は11.9379です)。
計算例
たとえば、37歳の家事従事者が後遺障害10級を認定された場合、弁護士基準による後遺症逸失利益の計算は、次のとおりです。
388万0100円×27%×19.6004=2053万3908円
*「19.6004」は、30年(=67歳-37歳)のライプニッツ係数です(2020年4月1日以後の事故として年3%で計算しています)。
金額が増減する個別事情
上記の計算方法は、過去の裁判例に基づいた弁護士基準によるものです。
あくまで目安や相場であり、個別の事情によっては、弁護士基準の金額が増減されます。
以下では、金額が増減されやすい典型的なケースを解説します。
家事に影響を与えにくい後遺症の場合(減額の可能性)
後遺症の内容によっては、家事に影響を与えにくいケースもあります。
そのようなケースでは、弁護士基準よりも低額となる可能性があります。
以下は、家事に影響しにくいとされやすい後遺症の典型例です。
後遺症逸失利益について弁護士基準とおりの金額が認められなかったり0円とされたりする可能性もあります。
弁護士に相談することをおすすめします。
- 傷あと・やけど(醜状)
- 耳が欠けた
- 鼻が欠けた
- まぶたが欠けた
- 歯が欠けた
- 臭いを感じにくい
- 鎖骨の変形
- 本サイトの慰謝料などの賠償金自動計算機では、主な後遺症が上記のいずれかである場合、個別の判断が特に必要なため、「要弁護士相談」としています。
後遺症がずっとは残らないと考えられる場合(減額の可能性)
後遺症がずっとは残らないと考えられる場合には、後遺症が家事に影響する年数(労働能力喪失期間)を短く計算されて、後遺症逸失利益の金額が低くなる可能性があります。
典型的な例はムチウチです。
ムチウチの後遺症では、労働能力喪失期間が、後遺障害等級12級の場合は10年、14級の場合は5年とされやすいです。
また、痛みの後遺症も、同じように労働能力喪失期間を短くされる例が比較的多いです。
- 本サイトの慰謝料などの賠償金自動計算機では、ムチウチの後遺症逸失利益は12級の場合には10年、14級の場合には5年の労働能力喪失期間で計算されます。
高齢の家事従事者の場合(減額の可能性)
家事労働をお金に換算するにあたって、女性平均年収で計算されるのは一般的な家族構成の場合です。
裁判例では、介護が不要の配偶者のみの家事をする高齢の家事従事者の場合は、女性の平均年収を減額した上で計算される傾向があります(女性高齢者の平均年収が計算に使われることもあります)。
事故前から家事を分担している人がいる場合(減額の可能性)
他に家事を分担してくれている人がいる場合には、その分だけ本人は家事労働の負担がもともと無かったわけですので、金銭換算する際もその分を差し引くために、女性平均年収を減額して計算されることがあります。
兼業の家事従事者(兼業主婦など)の場合
外でも働いている兼業の家事従事者の場合は、後遺症のために外で稼ぎにくくなった金額と家事をしにくくなった分を金銭換算した金額のいずれか高い方を後遺症逸失利益として請求するのが一般的です。
具体的には、
家事従事者の後遺症逸失利益の金額
=女性の平均年収✕労働能力喪失率✕労働能力喪失期間のライプニッツ係数・・・A
会社員の後遺症逸失利益の金額
=年収✕労働能力喪失率✕労働能力喪失期間のライプニッツ係数・・・B
のAとBのいずれか高い方の金額を請求します。
会社員の後遺症逸失利益の計算方法などについて、詳しくは会社員の後遺症逸失利益のページをご覧ください(会社役員の場合は会社役員の後遺症逸失利益のページ、個人事業主の場合は個人事業主の後遺症逸失利益のページをご覧ください)。
なお、後遺症のために家事と外の仕事の両方をしにくくなったのだから、AとBを足した総額を請求するべきとも思えます。
確かに、それに近い考えの裁判例も少数ですが存在します。
しかし、多くの裁判例では、家事は24時間労働であるところ、その一部を割いて外で働いていると考えることにより、AとBのいずれか高い方のみを後遺症逸失利益としています。
計算例
たとえば、年収100万円のパートをしている兼業主婦(37歳)が、後遺障害10級を認定された場合、弁護士基準による後遺症逸失利益の計算は、次のとおりです。
388万0100円×27%×19.6004=2053万3908円・・・A
100万円×27%×19.6004=529万2108円・・・B
A>Bなので、後遺症逸失利益は2053万3908円。
*「19.6004」は、30年(=67歳-37歳)のライプニッツ係数です(2020年4月1日以後の事故として、金利年3%で計算しています)。
定期払いが認められる可能性
上記は、後遺症逸失利益を一括で支払ってもらう場合の計算方法です。
そうではなく、将来にわたって定期的に支払ってもらう定期払いの方法を被害者が選択した場合には、定期払いが認められる可能性があります(最高裁判所令和2年7月9日判決)。
定期払いを選択すべきか、仮に選択した場合に認められるかについては弁護士に相談することをおすすめします。
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