大分市城崎町の深田法律事務所代表。
弁護士歴18年、交通事故の相談を1000件以上担当してきました。交通事故被害者と保険会社の情報格差をなくしたいと思い、当サイトにて執筆しています。
将来の介護費用
更新日:2021年12月06日
将来の介護費用とは、重度の後遺症のために将来にわたって必要となる介護費用のことです。
重い後遺症が残り、将来にわたって介護が必要になった場合、「将来の介護費用」を加害者側保険会社に請求します。
このページでは、将来の介護費用を請求できる場合、支払方法、金額の計算方法について解説します。
なお、治療中に自宅での介護が必要であった場合には、治療中の自宅介護費用も請求できる可能性があります。
詳しくは、その他費用の「在宅付添費」の項をご覧ください。
将来の介護費用を請求できる場合
医師の指示や後遺症の内容・程度により、介護が必要と判断される場合には、将来の介護費用を請求することができます。
具体的には、後遺障害等級の別表第一の1級または2級の場合に、将来の介護費用を請求できるのが一般的です。
後遺障害等級は、後遺症の重い順に1級から14級まであり、保険会社から通知されるものです。
別表第一は介護を要する後遺症の等級であり、別表第二は原則として介護を要しない後遺症の等級です。
もっとも、そのほかの等級(後遺障害等級の別表第二)であっても、介護が必要と判断される場合には、将来の介護費用を請求できることがあります。
特に、高次脳機能障害や手足の麻痺などの場合、後遺障害等級の別表第二の等級であっても、将来の介護費用の請求が認められている裁判例がしばしばみられます。
本サイトの慰謝料などの賠償金自動計算機では、後遺障害等級が別表第一の1級または2級の場合に、将来の介護費用を計算しています。そのほかの等級であっても、介護を要する場合は、将来の介護費用を請求できる可能性がありますので、弁護士に相談してください。
支払いの方法(一括払い・定期払い)
将来の介護費用については、一括で支払ってもらう方法と、定期払い(「月●円ずつ払う」など)で支払ってもらう方法があります。
一括払いで解決する例が多く、本サイトの賠償金自動計算機でも一括払いの方法で計算しています。
ただし、一括払いと定期払いには、それぞれ以下のようなデメリットがあるとされており、いずれの方法を求めるかは十分に検討する必要があります(弁護士に相談することをお勧めします)。
一括払いのデメリット
- 将来にわたって要する介護費用を正確に予測することは困難である。
- 将来の物価の変動を反映できない。
- ライプニッツ係数で金利分を差し引く計算が現実的とは言い切れない。
定期金払いのデメリット
- 加害者(または加害者側保険会社)の資産状態の悪化リスク
いずれの支払い方法をとるかについて、保険会社との話し合いでまとまらない場合は、裁判をして決めることになります。
金額の計算方法
一括払いと定期払いのいずれの支払い方法かによって、金額の計算方法が異なりますので、分けて解説します。
一括払いでの計算方法
介護の方法には以下の3つがあり、それぞれ計算方法が異なります。
- 施設で介護
- 自宅で近親者が介護
- 自宅で職業介護人が介護
以下、1~3に分けて解説します。
なお、上記1~3の介護の方法を組み合わせて介護する場合は、それぞれの計算方法を組み合わせて、個別に調整をして計算する必要があります。
施設で介護
施設で介護する場合の将来の介護費用の計算方法は、以下のとおりです。
将来かかるであろう月額の介護費用✕12ヶ月✕平均余命までの年数のライプニッツ係数
過去に要した月額の介護費用をもとに、将来かかるであろう月額の介護費用を推測し、その介護費用に12ヶ月をかけ算して年額を算出し、それに平均余命までの年数のライプニッツ係数をかけ算して、将来の介護費用を計算します。
平均余命までの年数をかけ算せずに、ライプニッツ係数でかけ算をするのは、将来必要となる費用を一括して請求するため、金利分を差し引く必要があるからです。
たとえば、男性45歳、施設の月額利用料が30万円の場合、
月額30万円✕12ヶ月✕22.1672(男性45歳の平均余命である37年のライプニッツ係数)=7980万1920円
となります。
自宅で近親者が介護
自宅で近親者が介護する場合の将来の介護費用の計算方法は、以下のとおりです。
近親者の負担を金銭換算した日額✕365日✕平均余命までの年数のライプニッツ係数
近親者の負担を金銭換算した日額は、負担の程度に応じて個別に判断されます。
後遺障害等級が別表第一の1級の場合は日額8000円、別表第一の2級の場合は日額5000円~8000円の範囲の裁判例が多いですが、介護の負担の程度によっては金額が大きく変わる可能性もあります。
本サイトの慰謝料などの賠償金自動計算機では、別表第一の1級2級いずれの場合も日額8000円で計算していますが、介護の負担の程度によっては金額が増減する可能性があります。
この日額に365日をかけ算して年額を算出し、それに平均余命までの年数のライプニッツ係数をかけ算して、将来の介護費用を計算します。
平均余命までの年数をかけ算せずに、ライプニッツ係数でかけ算をするのは、将来必要となる費用を一括して請求するため、金利分を差し引く必要があるからです。
たとえば、男性45歳、日額8000円の場合、
日額8000円✕365日✕22.1672(男性45歳の平均余命である37年のライプニッツ係数)=6472万8224円
となります。
後遺障害等級が別表第二で、例外的に将来の介護費用を請求できる場合も、介護の負担の程度に応じて金額が判断されます。ただし、上記の別表第一の場合に比べると、金額が低くなることが多いです。
自宅で職業介護人が介護
自宅で職業介護人が介護する場合の将来の介護費用の計算方法は、次のとおりです。
将来かかるであろう日額の介護費用✕365日✕平均余命までの年数のライプニッツ係数
将来かかるであろう日額は、相当な範囲の金額に限定されることがあります。
具体的には、後遺障害等級の別表第一の1級では日額1万5000円で1万8000円の範囲で認めた裁判例が多く、別表第一の2級ではそれよりも低い金額とする裁判例が多いですが、具体的なケースに応じて金額が大きく異なる可能性があります。
その日額に365日をかけ算して年額を算出し、それに平均余命までの年数のライプニッツ係数をかけ算して、将来の介護費用を計算します。
平均余命までの年数をかけ算せずに、ライプニッツ係数でかけ算をするのは、将来必要となる費用を一括して請求するため、金利分を差し引く必要があるからです。
たとえば、男性45歳、職業介護人による介護日額1万5000円の場合、
日額1万5000円✕365日✕22.1672(男性45歳の平均余命である37年のライプニッツ係数)=1億2136万5420円
となります。
なお、職業介護人による介護は高額になることが多いため、以下の事情などにより、職業介護人による介護が必要であることの証明を求められることが多いです。
- 必要な介護の内容や程度
- 近親者が介護できない事情(年齢、体格、体調、就労状況など)
- これまでに誰が介護してきたか
介護保険を利用している場合
介護保険を利用している場合は、いずれの介護方法であっても、自己負担額(1割部分)だけではなく、介護保険給付額(9割部分)も含めて、加害者側保険会社に請求する必要があります。
大阪地方裁判所平成13年6月28日判決
「被告は、原告の障害内容からして、少なくとも六五歳以降は介護保険制度が適用されることが確実であるから、それ以降の介護費用は認められない旨主張するが、乙第八号証、第九号証によれば、介護保険による給付を受けるには介護認定審査会による要支援、要介護認定を受ける必要があり、要介護の程度によりサービスの支給限度額が定められているから、原告が当該制度を利用する意思を有していたとしても、当該制度を利用できるかどうか、どの程度の給付を受けることができるかは、必ずしも明らかとはいえないことに加え、そもそも介護保険法二一条が、第三者の行為によって給付事由が生じた場合に、市町村から当該第三者に対する代位請求及び支給停止の規定を設けていることからすれば、現実に給付が支給された場合にそれが損害の填補として損益相殺の対象となるものと認める余地はあるものの、現実に支給されていない将来の給付見込分について、第三者が損害賠償の責を免れるものと解すべき理由はない。したがって、将来、介護保険制度の適用見込みがあることを前提として、将来の介護費用をその分減額すべきであるとの被告の主張は理由がなく、採用することができない。」(*太字引用者)
なお、介護保険の対象とならない食費などは、事故と関係なくかかるお金として、請求できない可能性があります。
もっとも、事故がなければ、自宅でそれほどの食費がかかっていないという場合は、一定割合の請求が認められる可能性があります。
被害者が植物状態の場合
将来の介護費用の一括払いでの計算方法は、上記のとおり、平均余命までの年数のライプニッツ係数とされるのが一般的です。
しかし、被害者が植物状態の場合は、統計上、推定生存期間が通常人よりもはるかに短いとされているため、年数を短くして計算する裁判例があります(さいたま地方裁判所平成17年2月28日判決、東京地方裁判所平成6年9月20日判決)。
年数によって金額が大きく異なりますので、弁護士に相談することをお勧めします。
定期払いでの計算方法
実際に要している介護費用を定期的に(たとえば毎月)支払うという取り決めをします(取り決めができない場合は裁判をします)。
*近親者介護の場合はその負担を金銭換算します。上記の一括払いの項を参考にしてください。
将来、後遺症の程度が変わったり、介護費用が変わったりした場合には、定期的に支払ってもらう金額を変更するよう話し合います(話し合いがまとまらない場合は裁判をします)。
民事訴訟法第117条1項
「口頭弁論終結前に生じた損害につき定期金による賠償を命じた確定判決について、口頭弁論終結後に、後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起することができる。ただし、その訴えの提起の日以後に支払期限が到来する定期金に係る部分に限る。」
被害者が外国人である場合
永住資格の有無、在留資格の更新が確実かによって、計算方法が異なります。
永住資格がある場合、または、在留資格の更新が確実に認められる場合
将来にわたって、日本に在住すると考えられますので、日本の物価や収入水準をもとに、将来の介護費用の計算をします。
つまり、日本人と同じ計算をします。
在留資格の更新が確実に認められるかについては、以下の事情を考慮して、個別のケースごとに判断されます。
- 来日目的
- 事故の時点における本人の意思
- 在留資格の内容
- 過去の在留期間の更新の実績
- 将来の在留期間の更新の見込み(素行が不良でないこと、独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること、雇用・労働条件が適正であること、納税義務を履行していること、入管法に定める届出等の義務を履行していることなどにより判断されます)
- 生活や仕事の実態
一般的には、在留資格(ビザ)が「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」の場合は、在留資格の更新が確実に認められるとされる可能性が高いといえます。
そのほかの在留資格の場合は、上記の各要素をより詳細に検討して、在留資格の更新が確実に認められるといえるかが判断されることになります。
個別の判断が必要ですので、弁護士に相談することをお勧めします。
永住資格はなく、在留資格の更新も確実には認められない場合
将来にわたって日本に在住するとは考えられないため、日本国外(通常は出身国)の物価や収入水準をもとに、将来の介護費用の計算をします。
ただし、出身国の物価や収入水準などの資料を集めることや、それをもとに計算することは、とても難しく、専門性を要します。
弁護士に相談することをお勧めします。
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