給与所得者(会社員やアルバイトなど)の後遺症逸失利益

更新日:2021年12月06日

執筆者:弁護士 深田 茂人

交通事故被害者が損をしないための情報を手軽に得られるように、「交通事故お役立ち手帳」サイトを運営・執筆しています。そのコンセプトに賛同する全国の交通事故に詳しい弁護士とともに、無料相談にも対応しています。弁護士歴18年、交通事故相談担当1000件以上、大分県弁護士会所属(登録No33161)。

執筆者プロフィール

会社員
後遺症の影響で仕事のパフォーマンスが下がりました。
弁護士
保険会社に「後遺症逸失利益」を請求しましょう。金額の計算方法や請求方法について説明します。

一括払い

後遺症逸失利益(こういしょう いっしつりえき)とは、後遺症が仕事に影響して稼ぎにくくなったお金のことです(後遺障害逸失利益ともいいます)。

後遺症逸失利益を支払ってもらう方法は2つあります。

「一括払い」と「定期払い」です。

まず、一括払いの方法について解説します。

金額の計算方法(弁護士基準)

電卓で計算する人

後遺症逸失利益を一括で払ってもらう方法を選んだ場合の弁護士基準による金額の計算方法について解説します。
弁護士基準とは、過去の裁判例をもとにした計算方法であり、もっとも金額が高くなります。)

後遺症逸失利益とは、後遺症が仕事に影響して稼ぎにくくなったお金のことですが、将来を予測してその金額を正確に計算することは不可能です。

そのため、一括払いの場合は次のような基準となる計算方法があります。

年収✕後遺症のために稼ぎにくくなった割合(労働能力喪失率)✕後遺症が仕事に影響する年数(労働能力喪失期間)のライプニッツ係数

まず、「年収」に「後遺症のために稼ぎにくくなった割合(労働能力喪失率)」をかけ算して、1年分の稼ぎにくくなった金額を計算します。

さらに、その金額に「後遺症が仕事に影響する年数(労働能力喪失期間)のライプニッツ係数」をかけ算して後遺症逸失利益の金額を算出します。

なお、年数ではなくライプニッツ係数でかけ算するのは、将来稼げるはずだったお金をすぐに請求するため、金利を差し引く必要があるからです。

以下では、計算で使う

  • 年収
  • 後遺症のために稼ぎにくくなった割合(労働能力喪失率)
  • 後遺症が仕事に影響する年数(労働能力喪失期間)のライプニッツ係数
について、順に解説します。

年収

事故にあう前の年の年収です。
税金や社会保険料などを控除する前の税込みの年収です。

ただし、若年者の場合は年収が低いのが一般的ですので、事故前の年収をもとに将来にわたっての後遺症逸失利益を計算すると不当に金額が低くなってしまいます。
そのため、20代の若年者の年収が同性の平均年収より低い場合は、その平均年収で計算する裁判例が多いです(学歴、職歴、それまでの年収の推移などによっては、平均年収で計算されない例もあります)。
もっとも、ムチウチのように後遺症が仕事に影響する期間が短いとされるケースでは、平均年収ではなく事故前の年収で計算するのが一般的です。

*平均年収(令和元年)
男性560万9700円 女性388万0100円

*本サイトの慰謝料などの賠償金自動計算機では、29歳以下の場合、事故前の年収と同姓の平均年収のいずれか高い方で計算しています(ムチウチを除く)。

労働能力喪失率

労働能力喪失率とは後遺症のために稼ぎにくくなった割合のことです。

弁護士基準では、次の表のとおりです。

労働能力喪失率表

労働能力喪失期間のライプニッツ係数

労働能力喪失期間とは、後遺症が仕事に影響する年数のことです。

67歳までの年数とされるのが原則です。
ただし、高齢者の場合は平均余命までの2分の1の年数とされます。

年数ではなくライプニッツ係数とするのは、将来稼げるはずだったお金をすぐに請求するため金利を差し引く必要があるからです。
なお、民法が改正されたことにより、事故日が2020年3月31日以前の金利は年5%、2020年4月1日以後の金利は年3%とされていますので、それぞれのパーセンテージに応じたライプニッツ係数で計算することになります(たとえば5年の場合、5%のライプニッツ係数は4.3295、3%のライプニッツ係数は4.5797です)。

計算例

年収400万円の35歳女性会社員が後遺障害等級10級を認定された場合の、後遺症逸失利益の弁護士基準の金額は、次のとおりです。

400万円×27%×20.3888=22,019,904円

*「20.3888」は、32年(=67歳-35歳)のライプニッツ係数です(2020年4月1日以降の事故として3%で計算しています)。

金額が増減する個別事情

上記の計算方法は弁護士基準によるものであり、裁判になった場合に裁判官が後遺症逸失利益の金額を決めるにあたって目安とするものです。

あくまで目安ですので、個別の事情によって、金額が増えたり減ったりする可能性があります。

以下では金額が増減しやすい主なケースを解説します。

将来の昇給が予定されていた場合

事故前から将来の昇給が予定されていたケースでは、事故前の年収をもとに将来にわたっての収入減である後遺症逸失利益を計算すると、金額が不当に低くなる可能性があります。

そこで、事故前から将来の昇給が予定されていたことを証明することによって、その昇給を考慮した計算をしてもらえて、弁護士基準の金額より増額する可能性があります。

裁判例では、公務員や大企業労働者のように給与規定や昇給基準が明確な場合に、昇給の証明がしやすいため、昇給を考慮した計算を認められていることが多いです。

将来の減給が予定されていた場合

定年後の減給が予定されているなど、事故とは無関係に将来の減給が予定されていたケースでは、事故前の年収をもとに将来にわたっての収入減である後遺症逸失利益を計算すると、金額が不当に高くなる可能性があります。

このような場合は、事故前の年収を減額した金額をもとに計算したり、定年後の分は、予想される減額した年収で計算したりすることによって、弁護士基準の金額より減額する可能性があります。

事故後の年収に減額がない場合

事故後の年収が、事故前と比べて減っていなかったり、むしろ増えていたりすると、後遺症が仕事に影響して稼ぎにくくなったとはいえないとして、弁護士基準での金額よりも低くなる可能性があります。

裁判になった場合は、後遺症逸失利益についての裁判官の考え方が影響しやすいところです。

後遺症逸失利益は将来にわたっての「収入の減額分」であって、その金額をできる限り正確に推定するべきだという考え方(差額説)を重視する裁判官は、事故後の年収が減っていない場合、弁護士基準の金額より低い金額にする傾向があります。

他方、後遺症逸失利益は後遺症によって「労働能力が下がったことそのもの」であるという考え方(労働能力喪失説)を重視する裁判官は、弁護士基準に近い金額にする傾向があります。

特に公務員などは、後遺症による年収の影響を受けにくいことから、弁護士基準の金額よりかなり低い金額が認定されている裁判例もみられます。

仕事内容が後遺症の影響を受けやすい場合

仕事内容と後遺症の内容によっては、後遺症が仕事に影響しやすいケースもあります。

たとえば、片手の人差し指の末端の関節が動かない後遺症の後遺障害等級は14級ですので、労働能力喪失率の目安は5%です。

しかし、仕事内容がピアノ演奏である場合は5%よりもっと仕事に影響があると考えられ、より高額の後遺症逸失利益が認められる可能性があります。

仕事内容が後遺症の影響を受けにくい場合

仕事内容と後遺症の内容によっては、後遺症が仕事に影響しにくいケースもあります。
そのようなケースでは、弁護士基準よりも低額となる可能性があります。

以下は、仕事に影響しにくいとされやすい後遺症の典型例です。

  • 傷あと・やけど(醜状)
  • 耳が欠けた
  • 鼻が欠けた
  • まぶたが欠けた
  • 歯が欠けた
  • 臭いを感じにくい
  • 鎖骨の変形

仕事の内容にもよりますが、弁護士基準とおりの金額が認められなかったり、後遺症逸失利益が0円とされたりする可能性もあります。
弁護士に相談することをおすすめします。

*本サイトの慰謝料などの賠償金自動計算機では、主な後遺症が上記のいずれかである場合、個別の判断が特に必要なため、「要弁護士相談」としています。

後遺症がずっとは残らないと考えられる場合

後遺症がずっとは残らないと考えられる場合は、後遺症が仕事に影響する年数(労働能力喪失期間)を短く計算されて、弁護士基準の金額よりも減額される可能性があります。

そのような典型例としてはムチウチがあります。
ムチウチの後遺症では労働能力喪失期間が、後遺障害等級12級の場合は10年、14級の場合は5年とされやすいです。

また、痛みの後遺症も同じように労働能力喪失期間を短くされる例が比較的多いです。

*本サイトの慰謝料などの賠償金自動計算機では、ムチウチの後遺症逸失利益は12級の場合には10年14級の場合には5年の労働能力喪失期間で計算されます。

後遺症のために退職せざるをえなかった場合

後遺症のために退職せざるをえなかったことが証明できる場合には、定年まで勤務すればもらえたはずの退職金との差額も後遺症逸失利益に加えて請求できる可能性があります。

定期払い

後遺症逸失利益とは、後遺症が仕事に影響して稼ぎにくくなったお金のことですが、将来を予測してその金額を正確に計算することは不可能です。

そのため、将来にわたって定期的に支払ってもらう定期払いの方法を被害者が選択した場合には、定期払いが認められる可能性があります(たとえば67歳になるまで毎月決められた日に支払ってもらうなど)。

最高裁判所令和2年7月9日判決
「不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補填して、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり、また、損害の公平な分担を図ることをその理念とするところである。・・・上記目的及び理念に照らして相当と認められるときは、後遺障害による逸失利益は、定期金による賠償の対象となるものと解される。」

定期払いを選択すべきか、また、仮に選択した場合に認められるかについては、弁護士に相談することをおすすめします。

このページの執筆者
弁護士 深田茂人

弁護士 深田茂人
大分県弁護士会所属
登録番号33161

大分市城崎町の深田法律事務所代表。
弁護士歴18年、交通事故の相談を1000件以上担当してきました。交通事故被害者と保険会社の情報格差をなくしたいと思い、当サイトにて執筆しています。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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