2021.04.09 更新

個人事業主の死亡逸失利益

個人で事業をされている方が亡くなられた場合、加害者側の保険会社に対して、死亡逸失利益(亡くなられたことにより稼げなくなったお金)を請求することができます。

このページでは、商工業、農林水産業、サービス業、その他の自由業を個人で営まれている方の死亡逸失利益について解説します。

なお、会社(法人)を経営されている方は、会社役員の死亡逸失利益のページをご覧ください。

個人事業主の死亡逸失利益の計算方法

弁護士基準による計算方法は、次のとおりです。

白色申告の場合

個人事業主の死亡逸失利益
=事故前年の確定申告所得額✕(100%-生きていたら本人が生活費に使った割合)✕生きていたら稼いだであろう年数のライプニッツ係数

事故前年の確定申告所得額は、確定申告書Bの所得金額欄内の事業欄に記載されています(下図の確定申告書Bの左側の赤枠)。

まず、「事故前年の確定申告所得額」、つまり、事故前年の儲け(=売上-経費)に、(100%-生きていたら本人が生活費に使った割合(生活費控除率))をかけ算して、1年分の稼いだお金から、生きていたら本人が使ったであろう生活費を差し引いた金額を算出します。
そして、その金額に、生きていたら稼いだであろう年数(就労可能年数)のライプニッツ係数をかけ算して、生涯の稼げなくなった金額(本人の生活費を差し引いたもの)を死亡逸失利益として計算します。

生きていたら本人が生活費に使った割合(生活費控除率)は、弁護士基準によると、以下のとおりです。

  • 男性
    扶養家族なし:50%
    扶養家族1人:40%
    扶養家族2人以上:30%
  • 女性
    30%

各家庭の状況や収入によって、生活費控除率は増減する可能性があります。

生きていたら稼いだであろう年数(就労可能年数)は、67歳までの年数とされるのが原則です。ただし、高齢者の場合は平均余命までの2分の1の年数とされます。
また、将来にわたって稼ぐはずであったお金を一括ですぐに請求することになるので、法定の金利分が差し引く必要があります。そのため、年数をそのままかけ算せずに、ライプニッツ係数でかけ算することになっています。事故日が2020年3月31日以前の金利は年5%、2020年4月1日以後の金利は年3%とされていますので、それぞれのパーセンテージに応じたライプニッツ係数で計算することになります(たとえば5年の場合、5%のライプニッツ係数は4.3295、3%のライプニッツ係数は4.5797です)。

青色申告の場合

次の計算式のとおり、確定申告所得額に青色申告特別控除額を加算して計算します。
なぜなら、青色申告の確定申告所得額は、課税上の特典として、経費のほかに青色申告特別控除額が売上から差し引かれているからです。

(事故前年の確定申告所得額+青色申告特別控除額)✕(100%-生きていたら本人が生活費に使った割合)✕生きていたら稼いだであろう年数のライプニッツ係数

事故前年の確定申告所得額は確定申告書Bの所得金額欄内の事業欄に、青色申告特別控除額は青色申告特別控除額欄に記載されています(下図の赤枠)。

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金額が増減する個別事情

弁護士基準の金額よりも増えたり、減ったりする主な個別の事情には、以下のものがあります。

家族が事業の手伝いをしている場合

ご家族の方が事業の手伝いをしている場合は、身内ゆえに、給料が厳密に手伝いに見合った金額となっていないことがしばしばあります。

そして、手伝いに見合った金額よりも高い給料を家族に支払っている場合は、個人事業主本人の実際の稼ぎは、確定申告所得額よりも高いということになります。ですので、その場合は、その分を確定申告所得額に増額して、死亡逸失利益を計算する必要があります。

反対に、手伝いに見合った金額よりも低い給料を家族に支払っている場合は、個人事業主本人の実際の稼ぎは、確定申告所得額よりも低いということになります。ですので、その場合は、その分を確定申告所得額から差し引いて、死亡逸失利益を計算する必要があります。

個別の事情を考慮した計算が必要になりますので、弁護士に相談することをお勧めします。

若年者の場合

若年者の場合、年収が低いのが一般的です。そのため、事故前の年収をもとに将来にわたっての死亡逸失利益を計算すると、将来稼ぐはずだったお金よりも低く計算されることになってしまいます。

そのため、特に20代の若年者の年収が同性の平均年収より低い場合は、同姓の平均年収で計算する裁判例が多いです。ただし、学歴、職歴、それまでの年収の推移などによっては、平均年収で計算されないケースもあります。

電卓を持つ弁護士
本サイトの慰謝料などの賠償金自動計算機では、29歳以下の場合、事故前の年収と同姓の平均年収のいずれか高い方で計算しています。

年度間で収入の変動が大きい場合

死亡逸失利益の計算では、事故前年の確定申告所得額が使われるのが通常です。
しかし、年度間で収入の変動が大きい場合は、事故前数年分の確定申告所得額の平均で計算することがあります。

赤字の場合

事故前年が赤字であっても、死亡逸失利益は請求できるのが一般的です。
なぜなら、死亡逸失利益は、亡くなられたことによって、将来にわたって稼げなくなったお金だからです。事故前年が赤字だからといっても、将来ずっと赤字であったとは考えづらく、仮にそのような場合には転職する可能性だって考えられます。死亡逸失利益は、そのような将来の可能性も含めて計算する必要があります。

具体的には、事業の状況や被害者の職歴、学歴、資格、年齢などを考慮して、計算されることになります。
個別の事情を詳しく検討する必要がありますので、弁護士に相談することをお勧めします。

確定申告をしていない場合

十分な証拠によって、実際の所得が証明できれば、死亡逸失利益を請求できる可能性はあります。
会計帳簿、出納帳、領収書、請求書、通帳などが証拠として考えられます。

申告した所得が少ない場合

売上が少なく申告されている場合は、実際の売上を証明する必要があります。

経費が多く申告されている場合は、経費の多すぎる分を、経営状況や家族の生活実態などを明らかにすることによって、証明する必要があります。

いずれの証明にも、十分な証拠が必要です。

個人事業主が死亡逸失利益を請求するために必要な書類

確定申告書とその添付書類の控えが必要です。
それらの書類に税務署の収受印が押されていない場合、納税証明書や課税証明書も必要です。

このページの執筆者
弁護士 深田茂人(大分県弁護士会所属、登録番号33161)
大分市城崎町の深田法律事務所代表。
弁護士歴15年、交通事故の相談を800件以上担当してきました。交通事故被害者と保険会社の情報格差をなくしたいと思い、当サイトにて執筆しています。