大分市城崎町の深田法律事務所代表。
弁護士歴18年、交通事故の相談を1000件以上担当してきました。交通事故被害者と保険会社の情報格差をなくしたいと思い、当サイトにて執筆しています。
もめるパターン
更新日:2021年12月06日
交通事故で、加害者や加害者側の保険会社と、もめやすいパターンについて解説します。
過失割合でもめる
過失割合でもめるケースは多いです。
被害者は、自身の過失割合の分は加害者から支払いを受けることができませんので、過失割合は賠償金額に大きく影響します。
たとえば、被害者の治療費が100万円、慰謝料などが200万の合計300万円を請求しようとしても、被害者に過失割合が30%ある場合は、300万円×70%=210万円しか支払ってもらうことはできません。
典型的な事故態様であれば、基準(目安)となる過失割合があるため、それをもとに話し合いがなされるのが一般的です。
なお、ご自身が車やバイクを運転している場合、およそ避けがたい事故に思われても、過失割合が0%にならないことが多いです。
そのため、「避けることが不可能なのに、なぜ自分に過失割合があるのか?」と疑問に思われる方も多くいらっしゃいます。
このような疑問はもっともに思われるのですが、車やバイクは走行させるだけで危険が生じるものです。そのような危険な物を走行させている以上、相当に高度な注意をしなければならないといえます。
たとえ事故の瞬間は避けることができないと考えられる場合でも、その前にもっと減速すべきだったのではないか、もっと周囲を確認するべきだったのではないか、などと極めて細心の注意を払うことが法律上求められていると考えられます。
そのため、車やバイクを運転している場合、過失割合が0%になるケースは限られています。
治療費でもめる
治療費でもめるケースは多くあります。
保険会社が治療費を払ってくれない場合、治療費を打ち切ると言ってきた場合などについては、治療費のページをご覧ください。
ケガをしたか
事故が軽微な場合、保険会社は、被害者がケガをしていないのではないかと言って、治療費を払わなかったり、示談交渉の段階で治療費を払うべきではなかったなどと言ってくることがあります。
しかし、事故によってケガをしたかどうかは、主治医が判断すべきことです。
主治医の診断書やカルテの記載などの証拠をもとに、保険会社と交渉する必要があります。
「赤い本 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 2003年版」(日弁連交通事故相談センター東京支部)講演録327頁(片岡武裁判官)
「医師は、専門的知識と経験に基づき、個々の患者の個体差を考慮しつつ、変化する病状に応じて治療を行うもので(同旨、山形地判平13.4.17交民集34.2.519)、たとえば、頚部捻挫であるとの医師の判断は、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準に照らし、頚部捻挫以外の疾病は存在せず、かつ、事故と受傷との間に医学的な因果関係が存するという判断を含む総合的判断です。」
過剰診療か
保険会社は、治療期間が長すぎるとか、必要以上の治療がなされたとか言って、治療費を全額支払うことはできないと主張してくることがあります。
しかし、以下の裁判例のように、治療には主治医の裁量があります。
医療水準の範囲内といえる限りは過剰診療ではないと反論する必要があります。
東京地裁平成元年3月14日判決
「医師の診療行為は、専門的な知識と経験に基づき、個々の患者の個体差を考慮しつつ、刻々と変化する病状に応じて行われるものであるから、特に臨床現場における医師の個別的判断を尊重し、医師に診療についての一定の裁量を認める必要があるというべきである。また、医療水準といっても一義的なものではなく、医学の進歩等に伴い、ある診療行為の有効性・妥当性については、見解の対立が存する場合があるのであって、その見解がいずれも医学界においてある程度共通の認識と理解を得られているものとして医療水準の範囲内にあるといえる限り、そのいずれを採用するかは医師の裁量に委ねられているというべきである。更に、交通事故による受傷や突発的な発作の発生等の緊急の事態においては、患者の症状を完全に把握するための種々の検査の実施あるいは可能な診療方法の選択についての十分な検討のために時間的余裕が与えられないままに、一応の病的状態を推測して迅速かつ適切な処置をとることを要請されることがあるのであるから、その後の臨床経過から事後的にみて、診療行為の中に必ずしも必要不可欠とはいえない部分が存在するとしても、診療当時の状況に照らし、医師の推測が根拠を欠き、不合理であるといえない限り、当該診療行為を不適切なものと断ずべきではない」(*太字引用者)
休業損害でもめる
休業損害とは、交通事故のケガによる治療や安静のために収入が減ったお金のことであり、加害者側の保険会社に請求することができます。
しかし、保険会社は、仕事を休む必要が無かったのではないかと主張して、休業損害の全部または一部を払おうとしないことがあります。
そのような場合は、医師の診断書やカルテ、検査結果などによって、身体の状態を証明し、さらに、仕事の内容を説明して、仕事を休む必要があったことを証明する必要があります。
また、事故前に転職している場合や、事故前の収入を証明できない場合、収入が不安定である場合などは、休業損害の計算でもめることがあります。
慰謝料などの賠償金でもめる
保険会社は、慰謝料などの賠償金(治療費や休業損害なども含む)を低く見積もって提案してくるケースがとても多いです。
そのため、被害者が金額に納得いかず、もめることが多くあります。
被害者側としては弁護士基準の金額で提案し、保険会社と交渉をすることが大切です。
- 慰謝料などの賠償金自動計算機のページでは「弁護士基準」で賠償金を自動計算できます
後遺症が残った場合
後遺症が残った場合、後遺症慰謝料や後遺症逸失利益などを加害者に請求します。
しかし、以下のような点でもめることがよくあります。
後遺障害等級でもめる
後遺症が残った場合、認定される後遺障害等級によって後遺症慰謝料や後遺症逸失利益の金額が異なります。
そのため、後遺障害等級が何級かについて、もめることがよくあります。
ただし、後遺障害等級は保険会社と話し合って決めることはできません。等級の認定を申請する窓口は保険会社ですが、実際に等級を認定するのは損害保険料率算出機構という公的な団体です。
そのため、認定された等級に納得がいかない場合は、保険会社と話し合うのではなく、異議申し立てをしたり、裁判をしたりする必要があります。
後遺症逸失利益でもめる
後遺症が影響して稼ぎにくくなったお金は、後遺症逸失利益として加害者側の保険会社に請求することができます。
しかし、後遺症逸失利益は金額が高くなることもあり、もめることがよくあります。
具体的には、後遺症逸失利益の金額は、
年収×後遺症のために稼ぎにくくなった割合×後遺症のために稼ぎにくくなった期間
で計算します。
「年収」によって金額が変わるため、事故前に転職している場合、事故前の収入を証明できない場合、収入が不安定であった場合などで、もめることがあります。
また、「後遺症のために稼ぎにくくなった割合」は主に後遺障害等級によって決められるので、何級かでもめると、後遺症逸失利益の金額もなかなか決まらないということになります。
さらに、「後遺症のために稼ぎにくくなった期間」については、後遺症が残ると予想される期間や、後遺症が仕事に影響すると予想される期間がどのくらいかでもめることがあります。
既往症が影響したかでもめる
事故の前にケガや病気をしていることを「既往症」といいます。
事故によるケガに既往症が影響したために、治療が長引いたり、後遺症が残ったりした場合は、事故だけが原因とはいえないため、その分、加害者に請求できる賠償金が減ってしまう可能性があります。
保険会社は、わずかな既往症であっても、その影響を主張して減額を求めてくることがあります。
その場合は、
- 既往症と事故によるケガの関係(既往症が影響したかなど)
- 事故前の既往症の状況(事故前にすでに症状は無くなっていたかなど)
などを検討して、影響が無い(または少ない)といえる場合は、保険会社に反論する必要があります。
加害者が無保険の場合
加害者が無保険の場合、保険会社ではなく、加害者と直接話し合いをしなければならないため、以下のようなケースでもめることがあります。
話し合いに応じない
加害者が話し合いに応じない場合は、加害者に対して内容証明郵便を送ったり、裁判をしたりする必要があります。
弁護士に相談することをお勧めします。
支払いに応じない
加害者が支払いに応じない場合は、預金の差し押さえなどの強制執行をすることなどを検討する必要があります。
弁護士に相談することをお勧めします。
修理か買い換えかでもめる(物損)
以下の1~3のいずれかにあてはまる場合は、修理不能と判断されて、買い替えとなります。
- 技術的に修理不能
- 「修理代」が「買替代金+買替諸費用」よりも高い
- 車体の本質的構成部分(フレーム・エンジン・車軸など)に重大な損傷
上記2の場合は、修理代と買替代金がそれぞれいくらかが重要になります。
修理代と買替代金をしっかり把握した上で、修理と買い替えのどちらにするべきかを、保険会社と交渉する必要があります。
示談しないとどうなる
もめるケースで示談を長い間しないと、時効によって慰謝料などの賠償金を請求できなくなったり、加害者が裁判を起こしてきたりすることがあります。
時効
時効になってしまうと、慰謝料などの賠償金を請求できなくなります。
時効の期間は以下のとおりです。
*時効は、起算点や猶予など専門性の高い判断を要します。そのため、時効になる可能性がある場合は、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
- 人身事故の加害者に対する賠償請求
5年(2017年4月1日以降に発生した事故)
3年(2017年3月31日以前に発生した事故)
*ひき逃げなどで事故時に加害者が判明していないケースでは、期間が延長される可能性があります。 - 人身事故の加害者の自賠責保険に対する請求
3年 - 物損事故の加害者に対する賠償請求
3年
上記の期間が過ぎる前に、示談、裁判、時効の猶予の手段をとる必要があります。
加害者から裁判を起こされることがある
もめるケースでは、加害者が裁判を起こしてくることがあります。
支払わなければならない金額の上限を裁判所に決めてほしいという裁判です(債務不存在確認訴訟といいます)。
加害者とはいえ支払いをしなければならない立場の人間が、いくら支払わなければならないのかが長い間決まらないというのは、あまりに不安定といえることから、法律でこのような裁判を起こすことも可能とされています。
実際に加害者を動かしているのは加害者側の保険会社であることがほとんどです。
このような裁判に弁護士なしで対応するのは難しいので、弁護士に相談することをお勧めします。
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