大分市城崎町の深田法律事務所代表。
弁護士歴18年、交通事故の相談を1000件以上担当してきました。交通事故被害者と保険会社の情報格差をなくしたいと思い、当サイトにて執筆しています。
被害者が加害者にとるべき対応
更新日:2022年01月18日
交通事故の加害者が誠実でない場合や無保険の場合、被害者としては対応に苦慮することになります。
そのような場合に被害者がとるべき対応について解説します。
加害者が誠実でない場合
信じがたいことですが、交通事故の加害者が謝罪に来ないというケースは、それほど珍しくはありません。
また、謝罪に来たとしても、その謝罪に誠意が感じられないとおっしゃる被害者の方は多いです。
加害者のこのような態度には、主に以下のような理由が考えられます。
- 謝罪すると責任が重くなると思っている。
- 保険会社に任せて安心してしまっている。
- どうしていいか分からず、動けなくなっている。
- 忙しくて、そのままになってしまっている。
- 被害者に会うのが恐いと感じている。
自分が交通事故の加害者になってしまった場合を想像すると、全く理解ができない理由ではないかもしれませんが、それでもこのような態度は許されるものではありません。
特に、上記の理由のうち、保険会社に任せて安心してしまっている、つまり、保険会社から賠償金が支払われるからそれで大丈夫だと思っている加害者は多いようです。
しかし、お金さえ支払われれば被害者側が納得できるかというと、そのようなことは全くありません。
事故を起こして被害者側に大変な思いをさせた加害者が誠実に謝罪するという当たり前のことが前提にあって、初めて被害者側は賠償金などの話を聞くことができるようになります。
加害者の保険会社が事故対応している場合は、保険会社の担当者に、加害者の態度について相談してみましょう。
担当者によっては、常識的な対応をするように加害者に働きかけてくれることがあります。
ただし、担当者がそのような働きかけをしないケースもあります。
また、保険会社と加害者の間に保険代理店がいて、保険会社の担当者が自ら加害者に働きかけることが難しいケースもあります。
さらに、担当者が働きかけてくれたとしても、加害者が動かないケースもあります。
残念ではありますが、不誠実な人間に誠実さを求めることは難しいです。
加害者からの誠実な謝罪が期待できないケースでは、被害者として、以下の加害者へのペナルティーが大きくなるように動くほかありません。
加害者へのペナルティー
交通事故の加害者には、次の3つのペナルティーがあります。
- 刑罰
- 免許の取り扱い
- 賠償金
刑罰
刑罰とは、国が加害者に与えるペナルティーです。
加害者は、刑務所に入れられたり(懲役または禁固)、罰金を国に払ったりします。
以下、主な刑罰の内容を解説します。
過失運転致死傷罪(自動車運転処罰法5条)
通常の運転態様で被害者を死傷させた場合は7年以下の懲役または禁固、100万円以下の罰金が科される可能性があります。
危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法2条)
飲酒運転など危険な態様で運転していたときに被害者をケガさせた場合は、15年以下の懲役、死亡させた場合は1年以上20年以下の懲役が科される可能性があります。
救護措置義務違反の罪(道路交通法117条2項)
自らの運転によって死傷させた他人を救護しなかった場合は、10年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。
酒気帯び運転の罪(道路交通法117条の2の2第3号)
呼気1リットルあたり0.15ミリグラム又は血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラムのアルコールを保有した状態で車の運転をした場合は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
酒酔い運転の罪(道路交通法117条の2第1号)
呼気1リットルあたり0.15ミリグラム又は血液1ミリリットルあたり0.3ミリグラムのアルコールを保有し、そのために正常な運転ができないおそれがある状態で車の運転をした場合は、5年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。
事故による被害感情が強い場合や、加害者の謝罪に誠意が感じられない場合は、担当の検察官にそのことを話し、重い処罰を求めることが考えられます。
もっとも、執行猶予や罰金刑にとどまるケースも多いです。
被害者が軽傷の場合は、不起訴となって処罰されないこともあります。
犯罪被害者保護制度
加害者に刑罰を科すためには、検察官が裁判所に起訴し、裁判官が刑罰を科す判決をする必要があります。
検察官が起訴をする手続き、裁判官が裁判をする手続き、裁判後の手続きに、被害者が関与したり保護されたりする制度があります。
検察審査会への申立
検察官が起訴しない(=不起訴)と決めた場合、それに納得できない被害者や遺族は、検察審査会に審査の申し立てができます。
検察審査会は、審査を行い、起訴相当、不起訴不当、不起訴相当のいずれかの議決をします。
起訴相当または不起訴不当の議決の場合、検察官は捜査をし直して改めて起訴するか不起訴にするかを決めます。
検察審査会で起訴相当の場合は、検察官が不起訴と決めても、その後に検察審査会が再び起訴すべきとの議決をすると、裁判所が指定した弁護士が検察官に代わって起訴することになります。
被害者参加制度
被害者や遺族などの方々は、刑事裁判に参加することができます。
具体的には、
- 法廷で検察官の隣などに着席できます。
- 検察官の裁判での活動に関して、意見を述べたり、説明を求めたりできます。
- 法廷で証人を尋問できます。
- 法廷で被告人に質問できます。
- どのような事故であったのか、どのような法律を適用すべきかについて、法廷で意見を述べることができます。
ただし、検察官に申し出て、裁判所に裁判への参加を許可されることが必要です。
心情等の意見陳述制度
被害者や遺族などの方々は、被害についての気持ちや事故についての意見を法廷で述べることができます。
これにより、被害者の気持ちなども踏まえて裁判が行われやすくなります。
希望する場合は、担当する検察官に申し出る必要があります。
被害者通知制度
被害者やその親族などの方々は、裁判の進行状況、刑罰の内容、不起訴の場合はその理由の概要、刑務所に入った場合は刑務所での処遇状況や出所時期などについて、電話や書面で通知を受けることができます。
通知を希望する場合は、担当する検察官や検察事務官にそのことを伝えましょう。
ただし、通知をしない方がよいと検察官が判断した場合は、全部又は一部について通知されないことがあります。
免許の取り扱い
事故を起こした加害者は、免許の取り扱いにおいてペナルティーを受ける可能性があります。
たとえば、死亡事故を起こした場合は20点加点されて、免許は取り消しになります。
また、被害者に全治3ヶ月以上の後遺障害が残る事故を起こした場合は13点加点されて、免許が停止されます。
賠償金
事故を起こした加害者は、被害者に対して、治療費や慰謝料などの賠償金を支払わなければなりません。
加害者が自賠責保険と任意保険に加入している場合、これらの保険によって賠償金が支払われます。
自賠責保険によって支払われるお金は、法律で決められた最低限の金額のものです。
その金額を超える分は、任意保険によって支払われます。
任意保険会社が被害者に提示する金額は保険会社の希望する金額にすぎないので、被害者は保険会社の担当者と金額について交渉したり裁判(民事裁判)したりする必要があります。
加害者が無保険の場合
加害者が任意保険や自賠責保険に加入していない場合の対処について解説します。
車の所有者等に賠償金を請求できないか検討する
運転手が無保険であっても、運転手と車の所有者が別人の場合、被害者は車の所有者に賠償金を請求できる可能性が高いです。
なぜなら、車による事故の責任は、車を運転していた人だけでなく、車という危険な乗り物を管理している人(多くは所有者)も負うべきとされているからです(自動車損害賠償保障法3条)。
そして、車の所有者が保険に加入していれば、その保険会社から賠償金が支払われる可能性が高いです。
なお、車の所有者以外でも車を管理していると考えられる人には賠償金を請求できる可能性があります。
このように運転手以外に請求できる相手がいないかについて、詳しくは弁護士に相談することをお勧めします。
被害者自身の保険を利用する
被害者自身の保険を積極的に活用することにより、損失を最小限に抑えることができないかを検討しましょう。
人身傷害保険
被害者は、自分や家族の任意保険に人身傷害補償保険がついている場合、その保険会社から人身傷害補償保険金が支払われる可能性があります。
自動車保険証券に「人身傷害補償保険」と記載されていないかを確認の上、保険会社に問い合わせてみましょう。
ただし、人身傷害補償保険金額は、加害者が任意保険に入っていた場合に支払われる金額と比べてかなり低くなるのが一般的です。
もっとも、加害者に賠償請求の裁判をすれば、人身傷害補償保険金額が高くなると契約で定められていることが多いです。
人身傷害補償保険の利用については、弁護士に相談することをおすすめします。
無保険車傷害保険
加害者が任意保険に加入していなかったり、加入していても金額に制限があったりする場合に使える保険です。
被害者が死亡または後遺障害が残った場合に限られます。
労災保険
仕事中や通勤中に事故に遭った場合は、労災保険を使うことができます。
ただし、慰謝料など労災保険から支払われない分がありますので、その分は加害者に請求する必要があります。
車両保険
車の修理代や買い替え費用を自分の保険会社から支払ってもらいます。
車両保険を使った場合は保険料が上がりますので、使った方が得かどうかを保険会社に問い合わせましょう。
詳しくは「物損事故で自分の保険を使うべきか」のページをご覧ください
加害者の自賠責保険会社に直接請求する
加害者が任意保険には加入していなくても、自賠責保険に加入している場合、被害者は直接、自賠責保険会社に請求することができます(被害者請求といいます)。
政府の保障事業を利用する
加害者が自賠責保険に加入していない場合、被害者は政府の保障事業に請求することができます。
保障される金額は自賠責保険の金額に準じます。
政府(国土交通省)が加害者に代わって支払いをする制度ですが、被害者が請求する窓口は以下の保険会社となっています(50音順、2020年4月1日現在)。
保険代理店ではなく、以下のいずれかの保険会社に直接問い合わせる必要があります。
あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
AIG 損害保険株式会社
共栄火災海上保険株式会社
セコム損害保険株式会社
セゾン自動車火災保険株式会社
損害保険ジャパン株式会社
大同火災海上保険株式会社
Chubb 損害保険株式会社
東京海上日動火災保険株式会社
日新火災海上保険株式会社
三井住友海上火災保険株式会社
明治安田損害保険株式会社
楽天損害保険株式会社
全国共済農業協同組合連合会
全国自動車共済協同組合連合会
全国トラック交通共済協同組合連合会
全国労働者共済生活協同組合連合会
弁護士に相談する
加害者が無保険の場合、以上のような対処が考えられますが、それでも賠償金に不足する場合、その分は加害者本人に請求する必要があります。
ただ、加害者が無保険の場合は、被害者に次の2つのリスクがあります。
- 交渉がスムーズにいかないリスク
- 支払いがなされないリスク
加害者が任意保険に加入していない場合、示談交渉の相手は加害者本人になります。
そのため、連絡がつかないなどのトラブルが生ずるおそれがあります。
また、加害者が示談や賠償金について詳しくないため、交渉がスムーズに進まないことも多くあります。
そのような場合は、内容証明郵便によって賠償金の請求をしたり、民事裁判を起こしたりする方法が考えられますが、弁護士に相談するのが無難といえます。
なお、交渉によって示談がまとまる場合、示談内容は公正証書にした上で強制執行認諾条項を明記しておくと、支払いがない場合に強制執行することができるようになります。
もっとも、強制執行するには加害者の資産(預金など)がどこにあるかを把握する必要があります。
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