2021.04.09 更新

交通事故の治療費について

このページでは、交通事故の治療費について解説いたします。
相談者(困り顔)

交通事故のケガの治療費はどうなりますか?

弁護士

そうですね。誰が払うのか、いつまで払ってもらえるのか、健康保険を使うべきかなどについて説明しますね。

治療費は誰が払うのか

交通事故でケガをした場合、以下のところから治療費を払ってもらうことが考えられます。

  1. 加害者の任意保険会社
  2. 労災保険(通勤中や業務中の事故の場合)
  3. 被害者の任意保険会社(人身傷害補償保険がついている場合)
  4. 加害者の自賠責保険会社

当事者の加入している保険

自賠責保険=車を買ったときには必ず入らなければならない保険です。他人を死傷させた場合にその賠償のための最低限の保険金が支払われます。詳しくは自賠責保険のページをご覧ください。

任意保険=必ず入らなければならない保険ではありません。自賠責保険では不足する様々な保険があります(対人賠償保険、対物賠償保険、人身傷害補償保険、車両保険など)。詳しくは任意保険のページをご覧ください。

労災保険=雇い主が従業員のために必ず入らなければならない保険です。従業員が業務中や通勤中に死傷した場合に保険金が支払われます。詳しくは労災保険のページをご覧ください。

以下、上記1~4について順に解説します。

加害者の任意保険会社

加害者が任意保険に加入している場合は、その保険会社に治療費を払ってもらいましょう。

保険会社は、病院に治療費を支払う際、被害者の診断書や診療報酬明細書で治療費の内容を確認する必要があります。そのため、被害者は、自身の個人情報を保険会社が病院から入手することに同意する書面(同意書)を保険会社に提出する必要があります。

なお、病院によっては、保険会社からの支払いではなく、患者である被害者本人からの支払いを求めてくることがあります。その場合は、保険会社の担当者と相談した上で、まずは被害者ご自身で治療費を支払い、その後、領収書などを保険会社に提出して手出し分を請求します。

被害者の過失割合が大きい場合、保険会社が治療費の支払いを拒むことがあります。
なぜなら、加害者の保険会社は、治療費について被害者の過失割合の分は払わなくてもよいので、治療費全額を病院に支払った場合には、後で慰謝料などから治療費の被害者の過失割合分を差し引く必要があります。しかし、被害者の過失割合が大きい場合は、治療費の被害者の過失割合の分が慰謝料の金額を超えてしまって保険会社の「払いすぎ」が生じる可能性があるからです。

このように、保険会社が治療費の支払いを拒む場合は、以下の別の方法を検討する必要があります。

労災保険(通勤中や業務中の事故の場合)

通勤中や業務中の事故であれば、労災保険に治療費を支払ってもらうことができます。

特に、被害者の過失割合がある場合には労災保険がその分を負担してくれるので、被害者に有利になります。

会社とのやりとりや申請書の作成などで手間がかかりますが、労災保険の利用について、まずは勤め先に相談をしてみましょう。もし勤め先が協力的でない場合は、労働基準監督署に相談してみましょう(申請には勤め先の協力が絶対に必要というわけではありません)。

被害者の任意保険会社(人身傷害補償保険がついている場合)

被害者本人が加入している任意保険に人身傷害補償保険がついている場合、その保険会社に治療費を支払ってもらうことができます。

人身傷害補償保険とは、交通事故でご自身やご家族がケガをした場合に保険金が支払われる保険です。

加害者の自賠責保険会社

加害者の任意保険、労災保険、被害者の人身傷害補償保険のいずれも利用できない場合、加害者の自賠責保険会社に連絡をして、自賠責保険の請求書を入手してください。
そして、病院にも相談をし、自賠責保険で治療費をまかなうことになります。

しかし、自賠責保険で治療費を請求できる上限は120万円です。
超える分については加害者に請求することになります(まずは被害者が病院に支払いをして、その後に加害者に請求するのが一般的です)。

治療費はいつまで払ってもらえるのか

相談者(困り顔)
保険会社の担当者が治療費を打ち切ると言ってきました。まだ、症状が残っているのに・・・。
弁護士
治療費を払ってもらえるのは症状固定日(しょうじょうこていび)までです。くわしくご説明します。

治療費を払ってもらえるのは「症状固定日」まで

交通事故で保険会社から治療費を払ってもらえるのは以下の日までです。

  1. 症状が無くなった場合は「症状が無くなった日」まで
  2. 症状が残っている場合でも「治療の効果が無くなった日(症状固定日)」まで

上記1の症状が無くなった場合は問題ないと思います。

揉めやすいのは、上記2の症状が残っている場合です。
症状が残っている限り保険会社が治療費を支払ってくれるわけではありません。治療の効果がある間しか治療費を請求できません(ただし、重度の後遺症などでは、例外的に将来の治療費を請求できることがあります。)。

治療の効果が無くなった日のことを「症状固定日」といい、その日より後は、症状が変わらずに固定したということになります。そして、その固定した症状のことを後遺症といいます。

症状固定日と治療費の関係

「症状固定日」は誰が判断するのか

基本的には医師が判断します。
医師が後遺障害診断書に記載した症状固定日までの治療費を、保険会社に払ってもらえるのが一般的です。

医師が作成する「後遺障害診断書」には症状固定日の欄があります。
後遺障害診断書の症状固定日欄

しかし、ケースによっては、患者が症状を訴え続けるので、症状が変わらないけれども治療を続けて、症状が変わらなくなった日よりも後に症状固定日を設定されるということもありえます。
そのようなケースでは、裁判になった場合に、医師が設定した症状固定日より前の日を症状固定日と裁判官が決めることがあります。そして、裁判官が症状固定日を決めるにあたっては、医師が後遺障害診断書に記載した症状固定日だけではなく、症状の変化・治療の効果などについてのカルテの記載が証拠として重要になります。

このように、医師が後遺障害診断書に記載した症状固定日は重要ではありますが、絶対とは限りません

そのため、保険会社は、治療期間が長くなると、必ずしも医師の判断にはよらずに、「もう症状固定日になったのではないですか?これ以上は治療費を払えません。」などと言ってくることがあります。

保険会社が治療費の打ち切りを言ってきた場合

弁護士
保険会社が治療費の打ち切りを言ってきた場合の対処についてご説明します。

まだ治療期間がそれほど長くはないような場合は、担当者が探りを入れるつもりで治療費の打ち切りを言ってくることがあります。そのような場合は、未だ治療の効果があることを担当者に伝えるだけで治療費の支払いを継続してくれることが多いです。

しかし、治療期間が長くなってきた場合は、担当者は本気で治療費の打ち切りを言ってくるようになります。そのような場合はどうしたら良いでしょうか。
症状固定日についての医師の判断が絶対ではないとしても、症状に変化があるか、症状が変わらずに固定しているかについての医師の判断は極めて重要です。
だから、「症状固定日はいつか?」と医師にたずねるよりも、「症状は良くなっているか、悪くなっているか、その程度はどのくらいか?具体的にはどのような治療によって効果が生じているか?治療をやめると悪化する可能性があるか?」というように症状の変化や治療の効果を具体的に医師にたずね、その内容を保険会社に伝え、または、保険会社から医師に直接確認してもらうことが大切です。

このように、具体的に症状の変化や治療の効果を保険会社に把握してもらうことによって、まだ症状固定日ではないと理解してもらうことになります。それにより、保険会社は、裁判しても負けそうだと思えば、払ってくれるようになります。

治療費を打ち切られた場合の対応

保険会社から治療費を打ち切られた場合、以下のいずれかの対応が考えられます。

  1. 治療を終了して後遺障害診断書を医師に書いてもらう。
  2. 通勤中や業務中の事故の場合は、労災保険による治療費の支払いに切り替える。
  3. 通勤中や業務中の事故でない場合は、健康保険を利用した治療費の支払いに切り替える。

上記1~3について順にご説明します。

治療を終了して後遺障害診断書を医師に書いてもらう

すでに症状に変化がなく、治療の効果も無く、治療をやめると悪化する可能性も無いような場合には、保険会社と争って裁判をしても、すでに症状固定していると判断され、症状固定日より後の治療費を支払ってもらえる可能性は低いです。
そのような場合には、治療を終了して後遺障害診断書を医師に書いてもらいましょう(その後も自費で治療を続けることはもちろん可能です)。

通勤中や業務中の事故の場合は、労災保険による治療費の支払いに切り替える

いまだ治療の効果がある場合は、労災保険に切り替えることにより治療費を支払ってもらえる可能性があります。

なぜなら、そのような場合であれば、保険会社が症状固定と判断したとしても、労災保険ではまだ症状固定ではないと判断される可能性があるからです。

労災保険の利用について、病院、勤め先、労働基準監督署に相談してみましょう。

通勤中や業務中の事故でない場合は、健康保険を利用した治療費の支払いに切り替える

いまだ治療の効果がある場合は、保険会社の治療費打ち切り後に健康保険を利用して3割負担で治療を継続し、その後に保険会社と交渉や裁判することによって治療費を支払ってもらえる可能性があります。

なぜなら、そのような場合であれば、保険会社が症状固定と判断したとしても、裁判ではまだ症状固定ではないと判断される可能性があるからです。

なお、裁判となった場合は、後遺障害診断書やカルテの記載などをもとに症状固定がいつかを裁判官が判断します。

交通事故で健康保険を使うべきか

相談者(質問)
加害者が事故を起こしたのに、私(被害者)の健康保険を使うのはおかしいのでは?
弁護士
そんなことはありません。健康保険を使うことをおすすめします。

労働者が通勤中や業務中に遭った事故でなければ、健康保険を使いましょう。

なぜなら、健康保険を使っても、加害者の保険会社が支払いを免れることにはならないからです(健康保険が病院に支払った分を後で保険会社に請求します)

むしろ、被害者の過失割合がある場合には、健康保険を積極的に使いたいくらいです。

なぜなら、加害者の保険会社は、治療費について被害者の過失割合の分は払わなくてよいため、保険会社が病院に治療費を全額支払った場合には、後で治療費の被害者の過失割合の分が慰謝料などから差し引かれることになります。でも、健康保険を使っていれば、健康保険で支払われる7割分について被害者の過失割合の分は健康保険が負担してくれます(たとえば、被害者の過失割合が100%の自損事故の場合に、健康保険を使って治療すると健康保険で払われる7割分について被害者は負担しなくてよいのと同じ理屈です)。また、同じ治療であっても、健康保険を利用した方が、診療報酬のルールによって治療費が抑えられやすいので、その分、被害者の過失割合の分も抑えられ、後で慰謝料などから差し引かれる金額が低くなるからです。

健康保険について詳しくはこちらをご覧ください。

整骨院や鍼灸院に通えるか

相談者(困り顔)
夜遅くまで営業している整骨院や鍼灸院は通いやすいですね。正直、病院に行くより体の調子が良いですし・・・
弁護士
なるほど、そのようにお考えの方もいらっしゃいますね。ただ、慰謝料などの賠償金のことを考えると、病院に通った方が有利といえます。

病院は待ち時間が長かったり、夜は閉まっていることが多いです。また、おケガの内容によっては、整骨院や鍼灸院の施術の方が効果を感じるという方もいらっしゃいます。そのため、病院よりも整骨院や鍼灸院に通うことを希望される方も多いです。

しかし、交通事故の賠償(=保険会社からお金を払ってもらう)だけを考えるのであれば、整骨院や鍼灸院よりも、病院に通った方が有利といえます。

それは、次の2つの理由があるからです。

  1. 整骨院や鍼灸院の施術費よりも、病院の治療費の方が保険会社と揉めにくい。
  2. 後遺障害等級の認定にあたっては病院での経過が重視されやすい。

まず、上記1についてですが、整骨院や鍼灸院に通うことについて保険会社から了承を得ているのであれば揉めないことも多いです。
しかし、示談交渉の段階になって慰謝料などを弁護士基準の金額で請求すると、保険会社は整骨院や鍼灸院に通っていることを理由に減額の交渉をしてくることが多くあります
というのは、もし裁判になった場合には、整骨院や鍼灸院の施術費は、施術が有効かつ相当であることや医師の指示があることを証明できなければ保険会社に支払ってもらうことが認められない可能性があります(すでに保険会社が整骨院などに支払った分は慰謝料などから差し引かれる可能性があります)。
そのような可能性があることを理由として保険会社は示談金の減額交渉をしてくるのです。
 
また、上記2についてですが、後遺障害等級の認定にあたっては、整骨院や鍼灸院での経過よりも病院での経過の方が重視されやすいといえます。そのため、病院での通院が多い方が後遺障害等級の認定がされやすい傾向があると考えられます。

このように、交通事故の賠償だけを考えるのであれば、整骨院や鍼灸院よりも病院の方が有利といえます。

しかし、お身体やお時間のことも考えれば、病院よりも整骨院や鍼灸院の方が良いこともあると思います。
特に、病院ではリハビリを十分にしてもらうことができない場合(施設上の制約など)には、整骨院などでその分を補わざるをえないこともあります。

そこで、上記のことを考慮に入れても、やはり整骨院や鍼灸院に通いたいという場合は、以下の点に留意されるとよいと思います。

  1. 整骨院や鍼灸院に通うことについて事前に保険会社の担当者に了承をもらう。
  2. 保険会社から遅れずに施術費が支払われているかを整骨院や鍼灸院に毎月確認する。
  3. たとえ回数が少なくても病院にも通うようにする。

特に上記2についてですが、保険会社からの施術費の未払いが溜まってしまっている場合、保険会社の担当者が「こんなに多く通う必要があったのか。全額は払えない。」などと言い出して揉めるケースが散見されるので、注意が必要です。

このページの執筆者
弁護士 深田茂人(大分県弁護士会所属、登録番号33161)
大分市城崎町の深田法律事務所代表。
弁護士歴15年、交通事故の相談を800件以上担当してきました。交通事故被害者と保険会社の情報格差をなくしたいと思い、当サイトにて執筆しています。