歩行者と車の事故の過失割合(バイクや原付も含む)

更新日:2021年12月07日

執筆者:弁護士 深田 茂人

交通事故被害者が損をしないための情報を手軽に得られるように、「交通事故お役立ち手帳」サイトを運営・執筆しています。そのコンセプトに賛同する全国の交通事故に詳しい弁護士とともに、無料相談にも対応しています。弁護士歴18年、交通事故相談担当1000件以上、大分県弁護士会所属(登録No33161)。

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歩行者と車(またはバイクや原付)の事故の過失割合を調べることができます。

弁護士
以下の質問に回答していくと過失割合を調べることができます。一度回答したボタンを再度クリックするとその質問に戻れます。
次のいずれの事故ですか?

道路を横断する人歩行者が道路を横断していたときの事故(交差点も含む)

事故現場はどちらですか?

横断歩道横断歩道(横断歩道の外側2m以内の場所も含む)

信号機がありましたか?

あった

車の動きは?

直進

歩行者の横断中に歩行者の信号機の色が変わりましたか?

変わっていない

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変わった

横断歩道の途中に安全地帯がありましたか?

無かった

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安全地帯あった

歩行者が安全地帯を通過した後の事故でしたか?

歩行者が安全地帯を通過した後の事故通過した後

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歩行者が安全地帯を通過する前の事故通過する前

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右折または左折

歩行者の横断中に歩行者の信号機の色が変わりましたか?

変わっていない

車の信号機の色は?

赤または黄

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青、黄点滅、赤点滅のいずれか

過失割合を調べる

変わった

横断歩道の途中に安全地帯がありましたか?

無かった

車の信号機の色は?

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青または黄

過失割合を調べる

安全地帯あった

歩行者が安全地帯を通過した後の事故でしたか?

歩行者が安全地帯を通過した後の事故通過した後

車の信号機の色は?

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青または黄

過失割合を調べる

歩行者が安全地帯を通過する前の事故通過する前

車の信号機の色は?

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青または黄

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上記以外

過失割合を調べる

無かった

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横断歩道ではない

片側が2車線(両側4車線)以上の道路でしたか?

片側2車線はい

事故現場と横断歩道の距離は?

2~10m

その横断歩道には信号機がありましたか?

あった

車が横断歩道を通過した後の事故でしたか?

車が横断歩道を通過後の事故通過した後

車の動きは?

直進

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右折または左折

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上記以外

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車が横断歩道を通過する前の事故通過する前

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無かった

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10~50m

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50m以上

交差点での事故でしたか?

はい(交差点のすぐ近くの事故も含む)

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いいえ

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いいえ

事故現場と横断歩道の距離は?

2~5m

その横断歩道には信号機がありましたか?

あった

車が横断歩道を通過した後の事故でしたか?

車が横断歩道を通過後の事故通過した後

車の動きは?

直進

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右折または左折

過失割合を調べる

上記以外

過失割合を調べる

車が横断歩道を通過する前の事故通過する前

過失割合を調べる

無かった

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5~30m

過失割合を調べる

30m以上

交差点での事故でしたか?

はい(交差点のすぐ近くの事故も含む)

交差点の交差する道路の一方の幅が明らかに広かったですか?

一方の道路が広い交差点はい

歩行者が横断していた道路は次のいずれですか?

広路を横断する歩行者幅が広い道路

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狭路を横断する歩行者幅が狭い道路

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同幅員の交差点いいえ

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いいえ

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歩行者が車道で寝ていたときの事故

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歩行者専用標識歩行者用道路(車の通行が禁止された道路)での事故

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上記以外の事故

事故の場所は?

歩道と路側帯歩道または路側帯

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車道

道路の端に歩道または幅1m以上の路側帯が設けられていましたか?

はい歩道と路側帯

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いいえ

歩行者が道路の端から1m以内の範囲を通行していましたか?

道路の端から1m以内を歩行はい

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道路の端から1m超を歩行いいえ

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駐車場

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上記以外

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・過去に当サイトで過失割合を調べたことがある場合

過失割合事例Noが含まれているものをクリックしてください。
初めての方で事例Noが分からない方は、上の質問に回答していくと、ご自身の事故の事例ページにたどりつくことができます。

【事例No1-6】横断歩道上の歩行者と直進車の事故(信号の変化なし)
【事例No10-15】横断歩道の途中で信号が変化した歩行者と直進車の事故
【事例No19-22】横断歩道を渡っていた途中で信号が変わった歩行者と直進車の事故(安全地帯を過ぎた所での事故)
【事例No25-29】横断歩道上の歩行者と赤または黄信号の右左折車の事故
【事例No33-36】青・黄点滅・赤点滅信号のいずれかで右折または左折した車と横断歩道を渡っていた歩行者の事故
【事例No39-41】横断歩道の途中で信号が変わった歩行者と赤信号の右左折車の事故
【事例No45-50】横断歩道を渡っていた途中で信号が変わった歩行者と青または黄信号で右折または左折した車の事故
【事例No54-56】横断歩道の途中で信号が変わった歩行者と赤信号の右左折車の事故(安全地帯を過ぎた所での事故)
【事例No59-64】横断歩道の途中で信号が変わった歩行者と青または黄信号の右左折車の事故(安全地帯を過ぎた所での事故)
【事例No68】信号機の無い横断歩道での歩行者と車の事故
【事例No71-75】信号機のある横断歩道を2~10m通り過ぎた直進車と歩行者の事故(片側2車線以上の道路)
【事例No79-84】右左折車が信号機のある横断歩道を2~10m過ぎた辺りで歩行者に被害を負わせた事故(片側2車線以上の道路)
【事例No88-92】車が信号機のある横断歩道の手前2~10mの辺りで歩行者に被害を負わせた事故(片側2車線以上の道路)
【事例No96-98】信号機の無い横断歩道から2~10m離れた道路を横断していた歩行者と車の事故(片側2車線以上の道路)
【事例No101-103】横断歩道から10~50m離れた片側2車線以上の道路を横断中の歩行者と車の事故
【事例No106-107】横断歩道から50m以上離れた片側2車線以上の道路を横断中の歩行者と車の事故(交差点のすぐ近く)
【事例No110-112】近くに交差点の無い片側2車線以上の道路を横断していた歩行者と車の事故(横断歩道から50m以上離れた場所)
【事例No115-119】直進車が信号機のある横断歩道を2~5m過ぎた辺りで歩行者に被害を負わせた事故(片側2車線未満の道路)
【事例No123-128】右左折車が信号機のある横断歩道を2~5m過ぎた辺りで歩行者に被害を負わせた事故(片側2車線未満の道路)
【事例No132-136】直進車が信号機のある横断歩道の手前2~5mの辺りで歩行者に被害を負わせた事故(片側2車線未満の道路)
【事例No140-142】片側2車線未満の道路を横断中の歩行者と前進またはバックする車の事故(信号機の無い横断歩道から2~5m離れた場所)
【事例No145-147】片側2車線未満の道路を横断していた歩行者と車の事故(横断歩道から5~30m離れた場所)
【事例No150-151】横断歩道から30m以上離れた信号機のない交差点の広路(片側2車線未満)を横断中の歩行者と車の事故
【事例No153】信号機のない交差点の幅員の狭い道路を横断中の歩行者と車の事故(横断歩道から30m以上離れた片側2車線未満の道路)
【事例No155-156】同じ幅員の交差点を横断中の歩行者と車の事故(片側2車線未満、信号機なし、横断歩道から30m以上離れている)
【事例No158-160】横断歩道から30m以上離れた片側2車線未満の道路を横断していた歩行者と車の事故(近くに交差点の無い道路)
【事例No163-165】車道で寝ていた人と車の事故
【事例No168】歩行者用道路での歩行者と車の事故
【事例No170】歩道または路側帯での歩行者と車の事故
【事例No172-174】歩道または幅1m以上の路側帯のある道路の車道での歩行者と車の事故
【事例No177】歩道も幅1m以上の路側帯も無い道路の端から1m以内を通行していた歩行者と車の事故
【事例No179-181】歩道も幅1m以上の路側帯も無い道路の端から1m超離れた場所の歩行者と車の事故
【事例No184-185】駐車場での歩行者と車の事故

*今後、事例が追加される可能性があるため、欠番を設けています。

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過失割合の数値(%)

過失割合の数値(%)は誰がどのように決めるのか、当サイトで表示される数値(%)の根拠、示談などの最終的な判断をする場合の注意事項について説明します。

相談者(困り顔)
過失割合は誰が決めるのですか?
弁護士
事故の当事者が話し合って決めます。話し合いがまとまらなければ裁判になり、裁判官が決めます。
相談者(質問)
当事者や裁判官はどのようにして数値(%)を決めるのですか?
弁護士
法律文献で調べて決めます。なぜなら、法律文献には、典型的な事故類型ごとの、おおよその目安となる過失割合の数値(%)が示されているからです。保険会社は法律文献を調べて過失割合の提案をしてきますし、裁判官も法律文献を調べて判決を書きます
相談者(笑顔)
法律文献を調べれば、過失割合がわかるんですね
弁護士
目安となる数値(%)はわかります。でも、実際の事故は、法律文献で想定されている事故類型とは異なる点があるものです。また、同じ事故類型の過失割合であっても、法律文献によって見解が異なるものもあります
相談者(質問)
じゃあ、最終的な数値(%)はどのように決まるんですか?
弁護士
法律文献の事故類型と異なる点などを考慮に入れながら、目安の数値(%)の修正について、当事者同士で話し合います。裁判になった場合は、その修正を裁判官が考えます
相談者(困り顔)
目安の数値(%)だけで解決するというわけじゃないんですね
弁護士
そうですね。でも、目安の数値(%)を知ることは、当事者同士が話し合いをするにあたってはとても重要です。なぜなら、それを知らないと、全く見当がつかないという状態になりかねないからです。また、目安の数値(%)の修正は、微妙かつ専門的な判断を要し、弁護士や裁判官によっても判断が異なる可能性があるものです。裁判をせずに早期解決を図りたい場合は、目安の数値(%)どおりか、それに近い数値で話し合いをまとめる必要があることも多いです

当サイトで表示される過失割合の数値(%)は、各種法律文献を参考にして検討された目安の数値です。
示談などの最終的な判断をする場合は、必ず事前に弁護士に相談してください。
当サイトのご利用にあたっては利用規約を必ずお読みください。

過失割合についてもっと詳しく

歩行者と車の事故における個別の事情

当サイトの各事例には基本の過失割合が表示されています。
そして、その下に並んだ質問に回答すると、実際の事故の過失割合の目安となる数値(%)に変化します。

これらの質問は、事故ごとの個別の事情をできるだけ過失割合に反映させるためのものです。
当サイトでは、典型的で判断しやすい個別の事情をできるだけ質問に加えています。
しかし、質問には含まれていない個別の事情を考慮しなければならないケースも多くあります。

以下では、歩行者と車の事故における、基本の過失割合を変化させる個別の事情について解説します(以下に挙げられていない個別の事情が考慮される可能性もあります)。

歩行者の過失割合が大きくなる事情

歩道または道路の端から1m以上離れた白線がある

歩道と路側帯

歩道または1m以上の幅のある路側帯(=道路の端から白線までの部分)が設けられている道路では、歩行者は、横断する場合などを除き、車道を通行してはなりません(道路交通法第10条1項2項)。
そのため、このような歩道等がある道路の車道上の事故は歩行者の過失割合が大きくなることがありますが、反対に、このような歩道等がない道路の車道上の事故では歩行者の過失割合が小さくなることがあります。

たとえば、歩道等のある道路の端から1m超離れた場所の事故(事例No174)では、歩道等がない道路の端から1m超離れた場所の事故(事例No179-181)と比較すると、歩行者の過失割合が大きくなっています。

また、安全地帯のある横断歩道を渡っていた途中で信号が黄(青点滅)から赤に変わった歩行者と青信号で右折または左折した車の事故(事例No61)では、歩道等が設けられていない道路であった場合、基本の過失割合より5%ほど歩行者の過失割合が小さくなります。

そのほかの多くの事例でも、歩道等の有無は過失割合に影響しています。

実際の裁判例としては、大阪地方裁判所の平成15年9月5日判決があります。
事故現場は、片側1車線でその幅員が約3m(道路幅員約6m)の東西にのびる県道でした。道路北側には、幅員約0.5mの路側帯があり、その北側に幅約0.5mの側溝がありました。事故現場の北側は登り法面で草木が茂り、南側は下り法面でした。最高制限速度の規制はなく(法定速度時速60km)、山間部で、別荘が点在しており、交通量は少ないところでした。
軽自動車の運転者は、事故当日の午後0時ころ、職場の組合主催の立食パーティの席で、冒頭の乾杯のビールに口をつけていました。そして、午後4時30分ころ、県道を西から東へ時速約40kmで軽自動車を走行させていたところ、小型犬を連れて東から西に向かって道路右側(北側路側帯から南に約1.2m付近)を犬を連れて歩いている歩行者を発見し、急ブレーキをかけましたが間に合わず、車の左前部を歩行者に衝突させました。
判決では、事故現場付近の道路は、路側帯の幅員が約0.5mであり、歩車道の区別のない道路と評価されること、それゆえ、歩行者には路側帯内の通行は義務づけられておらず、道路の右側端によって通行することが義務づけられているにすぎないこと(道路交通法10条1項)、歩行者は、道路右側を通行しており、しかも、路側帯からの距離は約1.2mにすぎないこと、これに対して軽自動車の運転者の過失は重大であることが考慮され、歩行者:軽自動車=0%:100%と判断されました。

道路交通法第10条1項2項
「1 歩行者は、歩道又は歩行者の通行に十分な幅員を有する路側帯(次項及び次条において「歩道等」という。)と車道の区別のない道路においては、道路の右側端に寄つて通行しなければならない。ただし、道路の右側端を通行することが危険であるときその他やむを得ないときは、道路の左側端に寄つて通行することができる。
2 歩行者は、歩道等と車道の区別のある道路においては、次の各号に掲げる場合を除き、歩道等を通行しなければならない。
一 車道を横断するとき。
二 道路工事等のため歩道等を通行することができないとき、その他やむを得ないとき。」

上記法令の「歩行者の通行に十分な幅員を有する路側帯」、つまり、歩道と同視される路側帯は、以下のとおり、おおむね1m以上の幅員を有する路側帯と解釈されています。

執務資料 道路交通法解説17訂版148頁(道路交通執務研究会 編著)
「『歩行者の通行に十分な幅員を有する路側帯』とは おおむね一メートル以上の幅員と解されている。その理由は、人の肩幅がおおむね〇.五メートルであるから一メートル以上の幅があれば、歩行者のすれちがいが可能と考えられたことにある。」

歩行者の予測しづらい動き

歩行者が車にとって予測しづらい動きをして、それが事故の原因となった場合、歩行者の過失割合が大きくなることがあります。
例)急な飛び出し、後退、予想外の大きなふらつき、斜め横断

たとえば、青・黄点滅・赤点滅信号のいずれかで右折または左折した車と横断歩道を渡っていた歩行者の事故(事例No33-36)では、歩行者が予測しづらい動きをした場合、歩行者の過失割合が大きくなります。

そのほかの多くの事例でも、歩行者が予測しづらい動きをしたかは過失割合に影響しています。

実際の裁判例としては、神戸地方裁判所の平成8年12月12日判決があります。
事故現場は、市街地にある、片側がそれぞれ3車線と4車線ある南北に走る車道の、歩行者用信号機のある横断歩道上でした。
3月下旬午前2時20分ころ、歩行者は、歩行者用信号機が青点滅表示から赤色表示に変わった直後で、横断歩道を西から東へ小走りで渡りはじめました。車は、ライトを点灯して、本件車道を南から北へ走行していました。そして、車の運転者は、31~33.6m前方の横断歩道を渡っている歩行者を発見しました。しかし、歩行者が先に横断し終えると考え、そのまま北進を続けるとともに時速約45kmに加速し、歩行者に15mくらいに近づきました。そのとき、中央分離帯付近まで来ていた歩行者は、後ろから呼びかけられたと感じ、後ろを向き、後退しかけました。車の運転者は、歩行者が後退しかけたのを見て危険を感じ、急ブレーキをかけましたが、15m進行した地点で、少し後退した歩行者に車を衝突させました。
判決では、歩行者は、信号を無視して横断を開始し、呼びかけられたと感じ、前方左右を確認しないで急に後退しかけ、加害車に衝突されたのであるから、その過失は相当大きいといわざるをえないとして、歩行者:車=30%:70%と判断されました。

道路交通法第13条1項
「歩行者は、車両等の直前又は直後で道路を横断してはならない。ただし、横断歩道によつて道路を横断するとき、又は信号機の表示する信号若しくは警察官等の手信号等に従つて道路を横断するときは、この限りでない。」

同法第12条2項
「歩行者は、交差点において道路標識等により斜めに道路を横断することができることとされている場合を除き、斜めに道路を横断してはならない。」

横断禁止場所

歩行者が横断禁止場所で道路を横断した場合、歩行者の過失割合が大きくなることがあります。

たとえば、横断歩道から50m以上離れた近くに交差点の無い片側2車線以上の道路を横断していた歩行者と前進する車の事故(事例No110)では、歩行者が横断禁止場所で横断した場合、歩行者の過失割合が大きくなります。

実際の裁判例としては、大阪地方裁判所の平成11年10月6日判決があります。
事故現場は、片側3車線で中央分離帯が設置された、歩車道の区別のある東西にのびる幹線道路上でした。制限速度が時速50kmで、歩行者の横断は禁止されていました。事故現場から東側約32.5m付近には南北方向の道路が交わる交差点があり、その交差点の東西には横断歩道が設置されていました。事故当時、幹線道路の南側歩道寄りには交差点付近から駐車車両が連なっていました。
5月下旬午後10時ころ、普通貨物自動車は、幹線道路を時速約50kmで第2車線を西進し、交差点を通過しました。その直後、運転者は、前方約32.3mの地点を南から北に横断している歩行者を発見したので、クラクションを鳴らしました。それによって、歩行者が立ち止まってくれたものと軽信し、速度を落とすことなくそのまま進行しました。すると、約20m進行した地点で前方約11.7mに、立ち止まることなく北進してきた歩行者をあらためて発見したので、急ブレーキをかけましたが間に合わず、歩行者に普通貨物自動車を衝突させました。運転者は、酒気帯び運転の状態(呼気1Lにつきアルコール0.35mgを保有)でした。
判決では、運転者が酒気帯び運転であったこと、歩行者にも横断歩道の付近において歩行者の横断が禁止されている幹線道路を車両の動静に注意することなく横断した過失があるというべきことなどが考慮され、歩行者:普通貨物自動車=50%:50%と判断されました。

道路交通法第13条2項
「歩行者は、道路標識等によりその横断が禁止されている道路の部分においては、道路を横断してはならない。」

夜(日没~日の出)

日没から日の出時までの夜では、車は前照灯などの灯火をつけなければならないので、歩行者からは車の発見が容易になりますが、車からは歩行者の発見が困難になります。
そのため、歩行者の過失割合が大きくなることがあります。

なお、夜でなくても、トンネルの中や濃霧がかかっている場所などでは、同様の理由から、歩行者の過失割合が大きくなるケースがあります。
このようなトンネルの中や濃霧のケースは、本サイトの質問回答に含まれていませんので、弁護士に相談することを特にお勧めします。

道路交通法第52条1項
「車両等は、夜間(日没時から日出時までの時間をいう。)、道路にあるときは、政令で定めるところにより、前照灯、車幅灯、尾灯その他の灯火をつけなければならない。政令で定める場合においては、夜間以外の時間にあつても、同様とする。」

道路交通法施行令第19条
「法第52条第1項後段の政令で定める場合は、トンネルの中、濃霧がかかつている場所その他の場所で、視界が高速自動車国道及び自動車専用道路においては二百メートル、その他の道路においては五十メートル以下であるような暗い場所を通行する場合及び当該場所に停車し、又は駐車している場合とする。」

なお、上記の道路交通法施行令第19条が「視界が・・・その他の道路においては五十メートル以下であるような暗い場所」と定めていることから、街灯などで50mくらい前方が見えるほど明るい場所では、夜であっても歩行者の過失割合を大きくする必要がないと考えられます。

片側2車線(両側4車線)以上の道路

片側2車線(両側4車線)以上の道路では、通常、車の通行量が多く、高速で走行している車が多いと考えられます。

そのため、歩行者はより車に注意すべきといえますので、歩行者の過失割合が大きくなることが多いです。

ただし、片側2車線以上であっても、歩道または1m以上の幅のある路側帯(白線)が無い道路では、車の通行量や高速で走行している車はそれほど多くないため、歩行者の過失割合が大きくなることはないと考えられます。

微妙な判断が必要なケースもありますので、弁護士に相談することをお勧めします。

歩行者の過失割合が小さくなる事情

人通りの多い場所・時間帯(日中の住宅街など)

時間帯や場所によって人通りが多いことが予測できる場所があります。
車は、そのような場所を走行するときは、歩行者により注意すべきといえるので、車の過失割合が大きくなり、歩行者の過失割合が小さくなることがあります。
例)出退勤の時間帯のオフィス街、夜の繁華街、日中の住宅街や商店街

たとえば、直進車の信号が青、歩行者の信号が青から赤に変わった横断歩道での事故(事例No14)では、人通りの多い場所・時間帯であった場合、基本の過失割合よりも車の過失割合が5%大きくなります。

また、横断歩道から30m以上離れた片側2車線未満の道路を横断していた歩行者と車の事故(近くに交差点の無い道路)(事例No158-160)近くに交差点の無い片側2車線以上の道路を横断していた歩行者と車の事故の過失割合(横断歩道から50m以上離れた場所)(事例No110-112)の各事例も、人通りの多い場所・時間帯であった場合、基本の過失割合よりも車の過失割合が大きくなります(増加する数値は事例によって異なります)。

そのほかの多くの事例でも、人通りの多い場所や時間帯であるかは過失割合に影響しています。

実際の裁判例としては、さいたま地方裁判所の平成16年7月27日判決があります。
事故現場は、道路脇に民家が建ち並ぶ住宅街の、信号機のない十字路交差点でした。交差点で東西に通じる市道は、幅員5mで車道と歩道の区別はなく、前方の見通しは約60mありましたが、交差点手前の左右にはブロック塀があり、左右の見通しは悪い状況でした。南北に通じる道路は、幅員3.5mで、南方に向かって急な下り坂になっていました。
し尿処理車の運転者は、約25年前に勤務先に入社して以来、同じ地区でのし尿のくみ取りの仕事を担当し、事故現場である市道を2日に1回は通行しており、事故現場の周囲の状況をよく知っていました。2月上旬午後3時30分ころ、し尿処理車を運転して市道を西から東に向かって時速約25kmで進行し、交差点にさしかかりました。歩行者は、赤いトレーナーを着ており、自宅から西方に250mほど離れた友達の自宅に遊びに行くために、1人で自宅を出た後、交差点南北に通じる道路を南に進み、交差点を右(西方向)に曲がって市道を西方向に進むため交差点に進入しました。交差点北入口には電気工事作業車である普通貨物自動車が停車していたため、歩行者は、同車の陰から交差点に進入しました。し尿処理車の運転者は、歩行者との距離が5.5mに至って初めて歩行者に気づき、急ブレーキをかけましたが間に合わず、交差点の北端から1.7m南の位置で、歩行者に自車左前部を衝突させました。
判決では、事故現場は、住宅街で、北東には児童公園があり、小学校の通学路でもあり、事故発生当時小学校の下校時間帯で歩行者の交通量が多かったこと、歩行者が5歳であったことなどが考慮され、歩行者:し尿処理車=0%:100%と判断されました。

12歳以下、65歳以上、身体障がい者(目・耳・足・平行機能)

年少者、高齢者は動作と判断の点で、身体障がい者は動作の点で問題があり、このような方々がいることを念頭において、車を運転しなくてはなりません。
そのため、このような方々が被害に遭った場合、車の過失割合が大きくなり、歩行者の過失割合が小さくなることがあります。
特に5歳以下や身体障がい者は、歩行者の過失割合がより小さくなることがあります。

歩行者と車の事故では、多くの事例で、歩行者が年少者や高齢者、身体障害者かによって、過失割合が変化します。

実際の裁判例としては、東京地方裁判所の平成27年2月25日判決があります。
事故現場は、片側3~4車線の交通頻繁な幹線道路が南北に通じる交差点でした。周辺は市街地で、道路沿いには店舗やマンション等が立ち並んでいました。交差点の北側入口と東側入口には横断歩道が設置されていましたが、南側出口には横断歩道はなく、歩行者横断禁止の交通規制がありました。交差点は街路灯と店舗照明等で明るく、見とおしは良い状況でした。幹線道路の最高速度は時速60kmでした。
1月中旬午後7時少し前頃、車は、幹線道路の第2車線を時速約50~60kmで南進し、本件交差点にさしかかりました。そして、本件交差点の通過後に第4車線を走行するため、本件交差点の手前で第2車線から第3車線に車線を変更した後、対面信号機の青色信号に従い本件交差点に進入し、本件交差点内において、第4車線に向けて車線を変更しました。歩行者は、本件交差点の南側出口付近の車道を東から西に向かいゆっくり歩いて横断していましたが、車が近づいてきた時点では小走りになっていました。車の運転者は、本件交差点の南側出口付近で第4車線に小走りしてきた歩行者を衝突直前に発見しましたが、減速や急ブレーキをする間もなく車の左前部を歩行者に衝突させました。
判決では、夜間、幹線道路の横断禁止場所である車道を横断した歩行者の過失は重いこと、歩行者が腎臓機能障害(身辺活動困難)による障害等級1級1種の身障手帳の交付を受け、事故前に10年以上人工透析を受けており、事故当時の年齢(62歳)と健康状態から、歩行者の障害の身辺活動への影響があったと考えられることなどから、歩行者:車=65%:35%と判断されました。車の運転者は、歩行者の運動能力の低下はないと主張しましたが、歩行者の疾患と障害の内容から、過失相殺においてこれを一切考慮しないのは相当ではないと判断されています。

道路交通法第71条本文2号2号の2
「車両等の運転者は、次に掲げる事項を守らなければならない。
二 身体障害者用の車椅子が通行しているとき、目が見えない者が第14条第1項の規定に基づく政令で定めるつえを携え、若しくは同項の規定に基づく政令で定める盲導犬を連れて通行しているとき、耳が聞こえない者若しくは同条第2項の規定に基づく政令で定める程度の身体の障害のある者が同項の規定に基づく政令で定めるつえを携えて通行しているとき、又は監護者が付き添わない児童若しくは幼児が歩行しているときは、一時停止し、又は徐行して、その通行又は歩行を妨げないようにすること。
二の二 前号に掲げるもののほか、高齢の歩行者、身体の障害のある歩行者その他の歩行者でその通行に支障のあるものが通行しているときは、一時停止し、又は徐行して、その通行を妨げないようにすること。」

歩行者のほかにも複数人が横断・通行中

歩行者のほかにも複数人が道路を横断している場合、車は横断する歩行者の発見を容易にできるはずです。
また、横断ではなく、歩行者ふくめて複数人が車道を通行している場合も、車にとって歩行者の発見は容易なはずです。
ですので、これらの場合、車の過失割合が大きくなり、歩行者の過失割合が小さくなることがあります。
もっとも、他の横断者が横断をほぼ終わっているなど、歩行者の発見が容易とはいえない状況では、車の過失割合は大きくならない可能性があります。

道路を横断中の事例としては、横断歩道を渡っていた途中で信号が変わった歩行者と直進車の事故(安全地帯を過ぎた所での事故)(事例No19-22)などあります。
また、車道を通行中の事例としては、歩道または幅1m以上の路側帯のある道路の車道での歩行者と車の事故(事例No172-174)などがあります。

そのほかの多くの事例でも、複数人が横断・通行中であったかは過失割合に影響しています。

実際の裁判例としては、東京地方裁判所の昭和63年3月29日判決があります。
事故現場は、I通り方向からT通り方向へ通ずる車道幅員4.9m(そのうち東側1.35mは路側帯)の平坦な直線道路の横断歩道上でした。本件道路は、西側に幅員1.7mの歩道が設置され、I通り方向からT通り方向への一方通行、最高速度時速30kmの指定と駐車禁止の各交通規制がありました。本件道路は市街地の裏通りにあたり、事故現場の周辺には民家が密集しているうえに中学校や高等学校が点在し、人や車の通行量がかなり多いところでした。本件横断歩道は、本件道路の東側にあるO高等学校の正門前に設置されており、幅は4mでした。
2月下旬午後0時25分ころ、本件横断歩道の東側とO高等学校正門前の路側帯上には10数名の高校生が立ち話しをしていました。原付の運転者は、本件道路をI通り方向からT通り方向へ毎時約30kmで原付を進行させていたところ、本件横断歩道の手前約15mの地点で立ち話しをしていた高校生らが本件横断歩道を横断しようとしているのを確認しました。しかし、高校生らが渡る前に本件横断歩道を通り過ぎようと考えて、一時停止も減速もすることなく、高校生らを進行方向右側に避けながら通過しようとしたところ、高校生らの陰から本件横断歩道を小走りに横断してきた歩行者をその約9m手前で発見しました。慌ててハンドルを右にきるとともに急ブレーキをかけましたが間に合わず、歩行者に衝突しました。
判決では、原付の運転者は、進路前方の横断歩道上に横断しようとしている多数の高校生を確認しているのだから、その横断歩道の手前で一時停止すべきであったことなどが考慮され、歩行者:原付=0%:100%と判断されました。

車の信号が赤点滅

信号は黄色や赤色で継続して点滅していることがあります。
車は、赤点滅の場合は一時停止しなければならず、一時停止していない場合は過失割合が大きくなり、歩行者の過失割合が小さくなることがあります。

たとえば、赤点滅または黄点滅信号の歩行者と直進車の横断歩道上の事故(事例No6)では、車は、赤点滅信号で一時停止していなかった場合、基本の過失割合より10%ほど車の過失割合が大きくなります。

道路交通法施行令第2条1項
「黄色の灯火の点滅 歩行者及び車両等は、他の交通に注意して進行することができること。」
「赤色の灯火の点滅
一 歩行者は、他の交通に注意して進行することができること。
二 車両等は、停止位置において一時停止しなければならないこと。」

車の速度違反

交通や検挙の実情を考慮し、一般的に、時速15km以上の速度違反の場合、車の過失割合が大きくなり、歩行者の過失割合が小さくなることがあります。

さらに、時速30km以上の速度違反の場合は、反則金ではなく刑罰(罰金)とされており、違反が大きいと考えられるので、車の過失割合はより大きくなり、歩行者の過失割合がより小さくなることがあります。

酒気帯び運転

酒気を帯びて車を運転すると、道路交通法第65条に違反します。

そのため、車の過失割合が大きくなり、歩行者の過失割合が小さくなることがあります。

なお、呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15ミリグラム以上の場合は、刑罰が科される可能性があります(道路交通法第117の2の2第3号)。

酒酔い運転(まっすぐ歩けない等)

酒気を帯びているだけでなく、そのために正常な運転ができないおそれがある状態になってしまっている酒酔い運転は、酒気帯び運転よりも刑罰が重く、違反が大きいといえます(道路交通法第117条の2第1号)。

そのため、車の過失割合はより大きくなり、歩行者の過失割合がより小さくなることがあります。

どのような場合が「正常な運転ができないおそれがある状態」といえるかは一概にいえませんが、まっすぐ歩けるかなどの検査によって判断されます。

居眠り運転

居眠り運転も、酒酔い運転と同様、正常な運転ができないおそれがある状態といえます。

そのため、酒酔い運転と同程度に、車の過失割合が大きくなり、歩行者の過失割合が小さくなることがあります。

居眠り運転は、道路交通法第70条に違反し、過労による場合は同法第66条にも違反します。

無免許運転

免許なく車を運転して事故を起こした場合、車の過失割合が大きくなり、歩行者の過失割合が小さくなることがあります。

ただし、停車中などで無免許であることが事故を起こした原因となっていない場合は、歩行者の過失割合が小さくならないことがあります。
そのような微妙な判断を要するケースでは、弁護士に相談することを特にお勧めします。

携帯電話を持って通話、カーナビ・携帯電話等を注視

携帯電話を持って通話したり、カーナビや携帯電話などの画面を注視したりして、車を運転してはなりません(道路交通法第71条5号の5)。

このような違反があると車の過失割合が大きくなり、歩行者の過失割合が小さくなることがあります。

減速せずに右左折

道路交通法では、車は右左折する場合、徐行しなければならないとされています(道路交通法第34条1項2項、同法第34条1項2項)。

しかし、右左折時における交通の実態から、右左折に適した速度まで減速していれば、車の過失割合を大きくするには及ばないと考えられます。

車がそのような減速をせずに右左折をした場合、車の過失割合が大きくなり、歩行者の過失割合が小さくなることがあります。

徐行なし

車が徐行する必要性が高い場面では、徐行していない車の過失割合が大きくなり、歩行者の過失割合が小さくなることがあります(道路交通法第2条1項20号)。
なお、徐行とは時速約10km以下をいいます。

隣接する駐車スペースで乗降中の人がいた

駐車場内の駐車スペースで乗降中の人は、隣接する駐車スペースに入ってくる可能性があります。
そのため、車はそれを予測しつつ、途中で停まって確認するなどの注意をしながら、駐車スペースに入るべきといえます。
その分、事故があった場合は、車の過失割合が大きくなり、歩行者の過失割合が小さくなることがあります。

著しいハンドル・ブレーキ操作不適切や脇見運転などの著しい前方不注視

道路交通法第70条は、車は、ハンドル・ブレーキなどを確実に操作し、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならないと定めています。

この条文は、車の運転における一般的な義務を定めたものですが、この義務違反をもってただちに基本の過失割合を変化させるのは妥当といえません。
なぜなら、事故は何らかの不注意があるからこそ起こるのであり、そのうち一般的な不注意については、基本の過失割合において考慮済みといえるからです。

とはいえ、義務違反の程度が著しい場合は、車の過失割合が大きくなり、歩行者の過失割合が小さくなることがあります。

たとえば、運転中に車内の物を拾おうとして、手を伸ばしたり、その物を見続けたりすれば、著しいハンドル操作不適切または著しい脇見運転などとして、基本の過失割合を修正すべきケースがありえます。
また、見通しがよい場所にもかかわらず、事故の直前まで相手の存在に気づかなかったような場合には、著しい前方不注視として、過失割合が大きくなる可能性があります。

もっとも、このような事情には様々なものがありえますし、どの程度のものによって「著しい」といえるかは微妙な判断を要します。
そのため、このような事情がある場合は、弁護士に相談することをお勧めします。

道路交通法第70条
「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。」

過労、病気、薬物の影響により正常な運転ができないおそれがある場合

過労、病気、薬物の影響により正常な運転ができないおそれがある状態で運転した場合、車の過失割合が大きくなり、歩行者の過失割合が小さくなることがあります。

しかし、「過労」か否か、「病気、薬物の影響により正常な運転ができないおそれがある」か否かは、専門的な判断が必要になります。
そのため、このような事情がある場合は、弁護士に相談することを特にお勧めします。

道路交通法第66条
「何人も、前条第1項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。」

執務資料 道路交通法解説17訂版711頁(道路交通執務研究会 編著)
「ここにいう『過労』の程度については、右のように外見上の徴候について、観察あるいは取調べを行って明らかにするほか、睡眠時間、仕事の質、量等を考慮して個々具体的に判断するほかはないであろう」
同712頁
「明らかに病気にかかっている場合でも、正常な運転ができると認められる限り、本条の違反とはならない。」

横断歩道の外側の約2m以内の場所を横断していたケースについて

横断歩道での事故の過失割合を考えるにあたっては、次の2つのポイントがあります。

  1. 歩行者は、横断歩道上では強く保護されるべきなので、歩行者の過失割合が小さくなります。
  2. 歩行者は、横断歩道の外側の約2m以内の場所でも、横断歩道上と同様に強く保護されるべきであり、上記1と同様に歩行者の過失割合が小さくなります(ケースによっては「約1m以内の場所」に限られることもありえます)。

以下、理由を解説します。

横断歩道に接近する車は、横断歩道を渡って横断しようとする歩行者のいないことが明らかな場合を除き、横断歩道の直前で停止できるような速度で進行しなければなりません。

また、横断歩道を渡って横断しようとする歩行者がいる場合は、横断歩道の直前で一時停止しなければなりません。

このように、横断歩道の歩行者は保護されていますので、横断歩道上の事故では、歩行者の過失割合が小さくなります。

道路交通法第38条1項
「車両等は、横断歩道又は自転車横断帯(以下この条において「横断歩道等」という。)に接近する場合には、当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者又は自転車(以下この条において「歩行者等」という。)がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前。以下この項において同じ。)で停止することができるような速度で進行しなければならない。この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。」

では、横断歩道からわずかに外れて横断している歩行者は、横断歩道上の歩行者と同じように保護されることはないのでしょうか。

この点、横断歩道に接近する車は、横断歩道を渡って横断しようとする歩行者がないことが明らかな場合を除いて、上記法令のとおりの義務を負います。

そして、横断歩道から歩行者がわずかに外れていても、車が横断歩道に接近する段階では、横断歩道により横断しようとする歩行者がないことが明らかとはいえませんので、車には上記義務があるといえます。

そのため、横断歩道からわずかに外れている歩行者も、上記法令により、横断歩道上の歩行者と同じように保護されると考えられます。

では、横断歩道からわずかに外れているといえるのは、どのくらいの距離まででしょうか。

これは、横断歩道に接近する車にとって、横断歩道を渡って横断しようとする歩行者がないことが明らかと判断できる距離ということになります。
そして、その距離は現場の状況によって異なりうると考えられます。

もっとも、国土交通省の交通安全施設の資料において、車の停止線の位置につき、「横断歩道がある場合は、その手前2mの位置を標準とする。」とされていることなどから、横断歩道から約2m以内であれば、車に上記義務がある可能性はあるといえます。

なお、「執務資料 道路交通法解説17訂版」(道路交通執務研究会 編著)の712頁は、「例えば、横断歩道等から一メートルくらい離れた道路上を横断している歩行者」は、上記法令の適用がありうるとしています。

また、過失割合において歩行者に有利に区別されうる「横断歩道上」といえるかについて、「別冊 判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版」(東京地裁民事交通訴訟研究会編)の64頁は、「本基準における横断歩道上は、横断歩道内のみならず、横断歩道の端から外側に1mないし2m以内の場所も含むものとする。」とし、「赤い本 民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準 上巻(基準編)2020年版」(日弁連交通事故相談センター東京支部)の310頁は、「『横断歩道上』とは、横断歩道及び横断歩道に接する車道部分(幅員の狭い横断歩道であれば、おおむね1~2m以内)である。」としています。

実際の裁判例としては、神戸地方裁判所の昭和62年9月29日判決があります。
事故現場は、信号機のない交差点西詰めの南北に走る幅員4.3mの横断歩道付近でした。
歩行者は、横断歩道の西端から約2mはずれて南から北に向い横断歩行中、ほぼ中央まで進んだとき、交差点で右折西進してきた車と衝突しました。
判決では、商店街がちかくにあって歩行者の往来が多いこと、車の運転者が道路交通法違反による処罰2回、同法反則行為6件の前歴があること、歩行者は、横断歩道からはずれて横断していたものの、横断歩道西側からわずか2mの場所を横断していたのであるから、横断歩道上の横断と同視してよいものというべきことなどが考慮され、歩行者:車=0%:100%と判断されました。

このページの執筆者
弁護士 深田茂人

弁護士 深田茂人
大分県弁護士会所属
登録番号33161

大分市城崎町の深田法律事務所代表。
弁護士歴18年、交通事故の相談を1000件以上担当してきました。交通事故被害者と保険会社の情報格差をなくしたいと思い、当サイトにて執筆しています。

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